グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第47回)
パリでの講義

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :8月号

 今年も7月19日から21日まで、フランス SKEMA経営大学院大学でP2M集中講義を行った。
 パリの北の方に、北駅(Gare du Nord)という北フランスやベルギー行きのTGV(フランス新幹線)やロンドン行きのEurostar超特急が発着するターミナルステーションがあるが、そこから4キロくらいの La Villetteに同校のキャンパスの一つがある。ここが昨年からのP2M講義の場である。
 La Villetteは東京でいえば蒲田といった下町である。中国、ベトナム、フレンチ北アフリカ諸国、サブサハラ(サハラ砂漠以南)フレンチアフリカン諸国(カメルーン、コートジボアール、トーゴ、セネガルなど)から移住してきた人達が闊歩する街にちょっと異色な Tour de la Villetteという38階建のオフイスタワーがあり、わが校はこの12階に位置する。
 フランス固有のグランゼコールであり、ビジネススクール(経営大学院)であるSKEMAでは講義は全て一週間単位のセミナー形式(モジュールと呼ぶ)で行う。ビジネススクールは旬の教員と旬の講義が命であるので、先生は7割以上が他国からやってくる。従って、普通の大学のようにコマで講義を組むことができないことがひとつの理由である。また、もうひとつは、学生(修士課程生)はフランスや他のEU諸国の企業でインターンをしながら修士課程に在籍しているので、決め打ちで講義を受けることになるから。
フランス SKEMA経営大学院大学でのP2M集中講義

 今年我が講義にエントリーした学生は修士課程生(PM専攻、MBA専攻)29名と博士課程生2名の31名で、出身地域別では、フランス・他のEU諸国25%、中国25%、インド25%、アフリカ・中東20%、北・中南米5%であった。学生は例年になく真面目で、かなりの学生が聡明であった。
 講義には全員全出席で(これはフランスの大学ではありえないことである)反応もよく、修了テストは全員余裕を持って合格し、また、学生が教師に対して行う10項目10段階の評価でも平均91%の評価をいただいた(2度とこういうことはないであろう)。この講義を5年続けたことになるが、今年の傾向を拾ってみると次のようになる。
  • 中国人学生の学力がインド人学生の学力を上回った→英語で行う講義であることを考えるとこれは驚異的である。
  • EUの学生が少なくなっている→EU経済の停滞が大きく影響している(インターンの機会もかなり減っているようだ)。
  • P2Mのような戦略系・複雑系のPM体系への理解が深まっている→P2Mのプログラムマネジメントを応用する半日ワークショップでは昨年に続いて大変立派な結果がでた。
  • 以前多かった「P2Mのプロセスははっきりしない」というコメントが少なくなった→複雑性と多様性が支配するヨーロッパではプロセスでは対応できない業務が多くなっていて、メソドロジーが大事であることの自覚が出てきている。
 今年は、PMAJのP2M-PMS/PMC講習会の講師をお務め戴いている井上多恵子さんが指導を共同で行い、また、井上さんの専門領域である最先端の人材育成手法に基づく特別講義を行った。井上さんの評価も大変高く、学生を魅了した。井上さんは幼少時から中学校まで通算10年ニューヨークで育ち、また、オーストラリアの駐在員を3年経験し、その間に同国で修士を取得している。この経歴とご自身の努力で英語を完璧に使いこなすが、多分、井上さんの英語の質(特にライティング)の高さについては日本ではなかなか理解してもらえないであろう(分からないのであるから)と心配する次第だ。
 井上さんはご自身2冊目の著書となる、「心をつかむ英語アピール力」―表現力向上の秘訣―税務経理協会 税込1,575円 を出版された。本書は、グローバル時代に活躍する、日本人のアピール力を高めるために書かれた本であり、大変簡潔かつ分かりやすく書かれているので、このニーズのある方は是非お読みください。

 伝統あるグランゼコールSKEMAでP2Mを教える機会をこれまで持てたのは、P2Mの持つメタPM体系(PMを超越したPM)の潜在力をいち早く見抜き、同学での正規講座に据え、また、世界各地でP2Mのプロモーションを行って戴いた Professor Christophe N. Bredilletのお陰であるが、Bredillet先生は、6月末に同校副学長から退任された。今後、新たな構想を以て先生が切り開いた Strategy, Programme and Project Management のリサーチを展開される。また、同校で4年間パリ校の修士課程を取り仕切ったClaire Dray女史も8月末でSKEMAからボルドーのビジネススクールの統括部長に転ずることになった。
 そのようなことで、講義が終わった翌日の午後、両先生と井上さん、私で、北駅の前の老舗レストランで夏のフランス名物 海の幸盛り合わせ をご馳走になりながら、近い将来の再度の共同プロジェクト実現を誓い合った。我々の夢はこのオマールエビの爪のように大きい。

夏のフランス名物 海の幸盛り合わせ

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