グローバルフォーラム
先号   次号

「グローバルPMへの窓」(第46回)
国歌の話

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :7月号

 本コラムのウクライナシリーズが先月号で終わり、PMAJの総会も無事終わった。
総会参加の会員の皆さん(NPO法人では会員ではなく「社員」の呼称が正式ではあるが)に、終了後のご挨拶で、私のPM協会経営責任者歴も13年に及んでいるので、PMAJもこれから1年でよく今後のことを考え、みんなで路線を敷いていく必要がある、と申し上げた。
 世界のPM協会ではPMI、英国PM協会APM、オーストラリアPM協会AIPMなど会長の再任を禁じている協会を除いて会長職はどうも在任期間が長くなる傾向がある。最長記録はロシアPM協会長の20年、次がウクライナPM協会長の19年、そしてインドPM協会長の18年と続く。
 どうしてこのようになるかというと、決してPM協会長のポジションへの固執からではなく、ある種の好ましからざる循環が働いているように思える。つまり、どこでも、PM協会は、その国のPMを良くしたいという志が高く、その筋で人望のある人が創設者であり会長となる。つまりこの時点でエースを立ててしまうので、再任禁止規定が定款にない限り、年々再々結局創設者会長、あるいは中興の祖の会長に頼って何とか重任を、となってしまう。また、NPO法人であるPM協会では、会長職はどこも無給であり、協会代表としての旅費も個人または会長の所属先企業の負担がほとんどである。となると、よほどの余裕と野心がないかり、地味で見返りの少ないPM協会会長職を務めることを希望する理事はいなくなる。一方、代表者は、協会間の外交、会を代表しての講演、執筆など顔を売る任務を繰り返すのでいつの間にか世界の顔となり、益々、この人でないと、と、持ち上げられ、蟻地獄にハマりやすい。人がよいほどそうなる。
 NPO法人が文化となっている英語国やヨーロッパ大国のPM協会(但し、フランスはPM協会が90年代中盤に完全に消滅した)では、このようなことを見越して、代表者職に再任禁止条項を設けているのであろう。その代わり、強い事務局を置いて官僚制の下で協会運営の円滑化と影響力の継続性を維持している。PM協会では専務理事をCEOと呼ぶ。PM協会ではCEOは代表ではないのである。

 今月は閑話休題で、国歌の話をしたい。
私は昨年海外活動をかなり縮小したつもりであったが、今年に入りまた、あちこちからお声がかかり7月から12月まで毎月ヨーロッパで講演または講義を行うことになった。
 日本ではただのおじさん(あるいはジージ)も、海外にいくと人格を多少変えて日本を背負って一席構えることになる。昔と異なり、今は、講演前に不安になることはまずないが、逆に自ら戦闘意識をかきたてる工夫が必要である。これは昔大好きであった競馬の馬と同じである。競馬に「ずぶい」という用語があり、5歳馬や6歳馬となるとレースが近づいてきたことを気配で察し、自ら気合を高めるそうだ。
 競馬馬に習ってここ3年ほど私が用いている工夫は講演前日にいくつかの国歌を聴いて気分を高めることである。
 国歌をあれこれと聴くようになったのは、60歳を超えた頃からだ。学生時代に1年間南米のチリとペルーに滞在した(いわゆる遊学の遊ぶ方だけ)。チリから主たる滞在地のペルーの首都リマに陸路到着してしばらくしてペルーの独立記念日があった。滞在先の近くの広い街路で国軍パレードを見物し、先頭の陸軍軍楽隊の奏でるぺルー国歌にいたく感激し、憧れの南米の地に25日(海路)かけて辿りついた喜びを実感した。テレビでも事あるごとに国歌が流れており、若き日の我が頭のなかにそのメロディーがこびりついた。
 かつてあれほど憧れて移住まで夢見た南米とは社会人となってから全く関係がなくなり、その他の世界を渡り歩いた結果、自分の若かりし頃が懐かしくなり、インターネットでこのペルー国歌とその前にチリでうっとりと聴いていたフォルクローレ「チリに行くなら Si Vas Para Chile」の音楽メディアを探していたら無事めぐり合えた。しかも、ペルー国歌はペルー出身で世界の3大テノールであるファン・ディエゴ・フローレス(Juan Diego Flores)歌唱の優れものである。以来、散歩のお伴、あるいは気分転換にこの2曲をヘッドフォンを通じて聴くようになった。
 そして、スポーツの国際大会の表彰式などでなんとなく聴いたことはあるが世界の名だたる国歌を改めてきちんと聴いてみようという気が起こった。いくつかソースから集めて国歌ライブラリーを作った。現在は、おもにYou Tubeの動画付きのメディアを利用している。
 国歌を数十曲聴いて私なりに若干の分析(言葉が分からないところは動画で)をしてみると、ほとんどの国歌は、1) 圧政からの解放、独立(フランス、ロシア、中国、南米諸国)、2)建国の教え(ウクライナ、インドネシア、ベトナム、中近東諸国、台湾)、3)国家礼賛・国家元首礼賛(米国、英国、ドイツ、オーストラリア、韓国、北朝鮮、カナダ)、のいずれかに区分される。
 このようななかで、私が海外講演の前に戦闘意識を高めるのに聴くのは1)のジャンルで、続いて時間があるときは、2)と3)の曲であり、次の順序である。歌手も私の指定付きである。
フランス国歌 La Mareseillaise La Marseillaise
歌手 Roberto Alagna (フランスの誇るイタリア系テノール歌手)
ロシア国歌(旧ソ連国歌でもある)
歌手 ソロ歌唱はなく、ボリショイ劇場コーラス、赤軍コーラスなど
アルゼンチン国歌 Marcha de la Patria
歌手 Patricia Sosa
オーストラリア国歌 Advance Australia Fair
歌手 Olivia Newton-John または Julie Anthony (シドニーオリンピック開会式)
中国国歌 義勇軍行進曲
歌手 ソロはなく、コーラス(不明)
台湾国民歌 三民主義
歌手 張恵妹(アーメイ:台湾・アジアの大歌姫)
ウクライナ国歌 ウクライナは滅びず
歌手 Ruslana Lyzhychko (Eurovision Song Contest 2004グランプリ受賞、2009年 Asia Song Festival Best Artist受賞)
ドイツ国歌 Deutschland über alles
歌手 ソロはなく、コーラス(不明)

 フランス国歌からアルゼンチン国歌までは実に大河曲で、フル演奏時間は5分近くに及ぶ。
 国歌は国の威信をかけて作詞・作曲されたか、国民に永く、根強く支持された国民歌が採用されたかであるので、概して優れた作品であるが、誰が歌うかで迫力がかなり変わってくる。
 海外の友人達に国家を歌うことがあるかと尋ねると、ほぼ100%、国歌はいまやスポーツイベントのためにあるという返事が返ってくる。ことほどさように、国家が歌唱されるのはなんといっても国際的なスポーツイベントであるが、各国は選りすぐりの歌手に国歌斉唱を委託する、それが上記の世界的に有名な歌手たちである。圧倒的な声量と情感で観衆の愛国心を掻き立てるのはさすが超一流アーティストかと思う。
 日本人歌手では、白血病で38歳で急逝した本田美奈子が亡くなる1年前の2004年秋、東京ドームの日米野球で米国国歌「星条旗よ永遠に」と「君が世」を唄ったが、ミスサイゴン本田嬢の素晴らしいパフォーマンスで、米国国歌を真剣に唱和するメイジャーリーグプレイヤー達の姿が印象的であった。本田嬢に心から哀悼の意を表したい。    ♥♥♥♥♥

[ご案内]
上記の国歌は、インターネットの検索エンジンで You Tubeで、どれかひとつ You Tube画面に入り、You Tube 内の検索ウィンドウで“(国名)XXX国歌”、または “National Anthem of (国名)”を入力すると、当該国の国歌演奏・歌唱のリストがでてくる。

ページトップに戻る