ダブリンの風(84) 「天気予報」
高根 宏士:7月号
毎日NHKの天気予報を見ている。主として雨が降るかどうかを知るためである。天気予報を見ていて気になるのは、同一の状況を、受け手から見て異なっているかのように放映していることである。予報に使う記号として晴れの場合は「太陽」、曇りの場合は「雲」、雨の場合は「傘」のマークが使われている。主としてこの記号を使ってほぼ3種類の予報がされている。最も概況を示す場合は地図の上に県単位でこの記号が示される。「晴れのち曇り」の場合は太陽から雲へ矢印で繋がっている。「曇り時々雨」ならば雲に傘が重なって示される。少し詳しくなると3時間単位で太陽、雲、傘マークが示される。最も詳しいのは関東地方(筆者が横浜なので)の地図に雲の動きを時間の経過に従って動かしていくものである。この3種類の間に矛盾と思われることがある。例えばある日の横浜について、概況では曇りになっているのに、3時間単位の表示では12時から15時までは傘マークになっているとか、3時間単位では太陽しかないのに地図で雲の経過を示す表示では明らかに雲が通過しているというような事象である。
気象情報を作成する側の事情は知らないので後は推測でしかないが、これは気象を予測することが、時間と場所、予測するための測定項目などの組み合わせ、またそれをある大きさの地域としてまとめて表現するという困難さからきているように思える。また3種類の情報を作成する人が違っているために同一の情報から導き出す合成情報が異なってくるのかもしれない。どんなに基準を作っても最後はそれを担当する人の判断が入るからである。しかし結果を利用する視聴者にとっては悩ましいことである。少なくとも3時間単位で雨マークがある場合は概況では「曇り時々雨」表示にする程度の整合性は取ってもらいたいと思っている。
ところで天気予報については純然たるエンドユーザだから勝手な事を云えるが、プロジェクトマネジメントの世界ではどうだろうか。例えばプロジェクトの進捗状況を判断する場合はどうするか。この場合も天気予報と同じ程度の表現は使う。概況としてはEVMのグラフでEVとPV、ACの関係を見る。3時間単位ではCPMでのトータルフロートの動きを見ていく。詳細になれば個々の作業の具体的な内容、(進み具合とできたものの品質)を見ることになる。これらの3種の情報そのものはそれぞれ有用である。問題はこれらの情報を見てどう判断するかである。例えばEVMである時点のEVがPVやACよりも大きかった場合、この情報のみからはプロジェクトは順調である。しかし当事者はこれだけで安心しては危ない。CPMでトータルフロートに余裕があるアクティビティが計画よりも進んでいて、クリティカルパスのアクティビティが遅れていた場合、このまま推移するとプロジェクトは遅れることになる。
反対にEVがPVより小さい場合、一見してプロジェクトは遅れると思われるが、CPMで見た場合クリティカルパス上のアクティビティは順調に推移しており、遅れているアクティビティの遅れはそれぞれトータルフロート内にあれば、スケジュール上は何とかなる範囲である。
PM(プロジェクトマネジャー)は様々なプロジェクト情報を受け取る。それらの中には矛盾したような情報もある。しかしPMはエンドユーザではない。困るとぼやいているだけではど素人と同じである。これらの矛盾した情報をどのように認識し、取捨選択し、または統合して判断するかにPMのセンスと力量が問われている。
雨が降るか降らないかを予測し、傘を持っていくか、持っていくとしたら折りたたみでよいか、大きな傘を持っていくかを判断し、結果責任を持つのはPM自身である。
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