リレー随想
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PMに求められるヒューマンスキル「コーチング力」

日本ユニシス株式会社 白井 久美子(PMAJ副理事長) [プロフィール] :7月号

 実務家として会社での業務遂行にP2Mを適用すること9年。最初は難しく感じていたプログラムマネジメントも今では仕事人として、ごく当然のこととして実践できている。あるときは部長職、あるときは社長、あるときは登壇講師、そしてあるときはPTA活動でのリーダーの立場で・・と、仕事ばかりでなく、人生における様々な局面、様々な立場で使いこなせるのがP2Mのいいところだとあらためて思う。
 日本型PM知識体系としてまとめられたこのP2M。いつも思うのがPMに求められるヒューマンスキル、つまり「人間力」についても言及できたらいいのになあ・・と思う。
 ヒューマンスキルと一口に言ってもその内容はさまざまである。私がいつもPM関連のセミナーを実施する際には、次のようなものがざっとあげられると紹介している。
状況認識力
判断・決断力
抽象化力
洞察力
リーダーシップ
調整力
合意形成力
交渉力
ティーチング力
コーチング力
メンタリング力
実行力
忍耐力
持続・継続力
表現力
話す力、聞きとる力
指導力
チャレンジ精神
コミュニケーション力
関係性構築力
包容力
柔軟性
 
 あげればきりがないし、11の個別プロジェクトマネジメントの知識コンポーネントの中で登場しそうなものもある。うまく体系化して言えるといいのにと思いながらもなかなか余裕がなくて整理できていない。
 今日この場ではコーチング力というものの一端について普段のなにげない職場での困りごと例にあげて紹介してみたい。

 アカデミーア・ミネルヴァというシティリビングの女性活躍支援事業のお手伝いを登壇講師としてたまにやらせていただいている。そこの講師ブログで今回こんな内容のものを紹介した。(詳細は  こちら を参照)
“部下が指示通りに動いてくれない”
という管理職のお悩みごとに関するアドバイスを記している。若手部下の指導で悩んでおり、ホウレンソウがない、ミスを連発・・・注意してもなおらない、同じミスを繰り返す。指示した事以上はまったくやろうとしてくれない・・・どうすればいいのか?という、上にたつ立場の者ならば誰でも一度は経験したことがあるような悩みではないか。プロジェクトの中でもPMはこうした経験・記憶があるに違いない。
  この問題をどう解くか?コーチングによる「やる気」向上が改善にむけた鍵になると私は考えた。人のやる気や能力を引き出すコミュニケーション技術である「コーチング」。部下がよくミスをするとかパフォーマンスがあがらない場合、部下の能力そのものを疑問視する前に、上司である自分は部下の「やる気」を最大限に引き出させていたのか?と、自分を振り返る必要がある。
 リーダーは組織やプロジェクトの責任者として仕事上の指示命令を的確にだすことは当然であるが、指示命令が的確で、その道のプロだというだけでは、メンバの能力を引き出したり組織/プロジェクトのパフォーマンスを最大化することはできない。メンバが自ら考えるようになり、仕事のゴールイメージをもって邁進する、仕事の質の改善や価値向上について、よりリーダーに近い視点で考えてくれ、パフォーマンスを発揮する“考える組織”を目指すには「コーチング」が有効である。
コーチングの手順は次の通り。(詳細解説は前述のURLに記載)
傾聴する
方向付け、目標の確認
アドバイスと励まし
自己管理の醸成
部下へのフィードバック
コーチングをするときのポイントは次の通り。
指導者(リーダー)側が指示命令として「答え」を先に言ってしまわない。どうすればいいのかの「答え」は部下(メンバ)にあることを常に意識する。
失敗があっても部下(メンバ)を厳しく叱責しないこと。失敗を責めるのではなく結果を共有し、対話しながら、どうしてそうなったのかを一緒に考え、改善策について部下(メンバ)に考えさせ、部下に対策を提案させ自分の言葉で語ってもらえるように促す。
たとえ指導者(リーダー)の期待値にまだまだ達しない域であっても、部下(メンバ)が自ら提案した対策が実行できたら褒めること。そんなことできて当然だと自分の目線で考えないこと。褒めるときの注意としては、「やればできるじゃない!」ではなく、「あなたが提案してくれたことを、自ら実行してくれて私はとても嬉しい!」とリーダー自身を一人称にしたメッセージで伝える。応援してきた選手が試合に勝って私は嬉しい、という表現と同じで、相手に対する自分の評価ではなく、できた事実に対するリーダー自身の感動を述べるようにする。そうすることで、相手は自分を良く評価してくれたことを素直に解釈し、納得し、さらにやる気度をUPさせる。
仕事のデキル指導者(リーダー)ほど部下(メンバ)を見る目は厳しく、潜在的に昔の自分と比べがちなものである。下からは「どうせあんな風にはできない」と思われがちで、リーダーや上役とはもともと遠い存在なのである。その距離を縮め、親身な応援者としてメンバをモチベートできるのがコーチング。プロジェクト/プログラムのパフォーマンスを最大限に引き出し、価値創造にむけてプロジェクト全員が一丸となってやる気を発揮するには、こうしたPMに求められるヒューマンスキル「コーチング力」が重要な鍵を握っていると言える。
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