例会部会
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2010年5月・第138回PMAJ例会レポート

三浦 嘉倫:7月号

 オンラインジャーナルに、例会部会の活動をご紹介するコーナーを立ち上げ今回は第2回になります。今回は2010年5月に開催された第138回例会についてご報告します。

【データ】
 開催日時:2010年5月28日(金) 19:00〜20:30
 テーマ:「海外に向けての中小企業の環境ビジネスの戦略」
 (副題:環境ビジネスグループの事例を中心として)
 講師:アビレコンサルティング代表 村上哲司氏

 例会でのご講演は、大きく分けて「プロジェクトマネジメントの理論や、知識・ツールの活用の仕方」と言った理論を中心としたのと、「実際のプロジェクトでの適用例・事例」と言った実践紹介とに分けられると思います。今回の講師は、技術士・中小企業診断士の資格を持ち、地域に根ざしたコンサルタントとして、特に中小企業の海外進出や地域振興のサポートに長年携わられてきました。そのご経験から、中小企業を取り巻く内外の環境分析とともに、特に環境系の技術を持つ中小企業の海外進出の事例を、まさに実践紹介としてお話しいただきました。

 では、ご講演での流れに従って内容をご紹介します。

 まず中小企業の海外進出というテーマの概観から。
 ターゲットとしての海外の状況を、中国、台湾、ベトナムを例に環境という観点から紹介し、日本も高度経済成長の時期に経験した著しい環境汚染が、経済発展著しいアジア各国で発生している現状を確認します。
 中小企業を取り巻く経済環境では、国内製造業の海外移転による国内空洞化で中小企業への発注量が低下、さらに少子高齢社会となり国内の需要そのものも縮小する状況です。一方新興国では経済発展が続き、環境技術へのニーズはますます高まってきている中、アンゾフの成長ベクトルを用いて市場開拓戦略に向かっていることを説明します。実際には中小企業の海外進出の80%余がアジア地域を対象としていますが、進出の狙いは「コスト縮減」ではなく「現地市場の開拓・拡大」が半数以上を占めており、海外での販路拡大が重要度を増している状況が明らかであることが示されました。
 中小企業が海外に向けた成長戦略を検討する際には、まずいわゆるSWOT分析(内部環境としての強みと弱み、外部環境としての機会と脅威、の4象限で状況整理)や、自社の持つシーズと市場の持つニーズをどのようにマッチさせるか「シーズ・ニーズマトリックス」を作成して戦略方向性の検討を実施する手法を紹介。実際に中国での具体的環境ニーズ例をあげ、日本の中小企業の持つシーズと合致させた複数のビジネス事例を紹介しました。
 ただ成功例はあるものの取組の反省点・問題点も多く、教訓として以下の項目が挙げられました。
中国という巨大市場への量的な対応の難しさ
中小企業の与信力不足
言葉や商慣習の違いに慣れていない
確度の高い情報が絞れない
専門家をそろえられない
 これらの課題に対するものとして「中小企業は連携することで弱点を克服する必要あり」というのが講義前半での講演者の主張です。

 後半は、中小企業が連携して海外進出の活動を行っている実例として、埼玉県の環境ビジネスグループ「環境9214会」の活動を紹介。埼玉県と姉妹県である中国山西省への埼玉県山西省環境ビジネス訪問団の訪中がきっかけとなり、官民協同でのシーズとニーズのマッチングが現実に動き題している例や、中小企業連携による弱点の克服と相乗効果が発揮されている例が紹介されました。

 まとめとして、日本の産業を支えている中小企業の環境技術は我々が考えている以上に海外から見たブランド力が高いにもかかわらす、マッチングの機会・仕組みが少ない状況であることが課題として挙げられました。そして埼玉での実例のごとく、中小企業は連携によりリソースを補って海外市場に進出しさらに活躍して欲しいとの結びでした。

 個人的に特に印象的だったのは、「ニーズとシーズ」という表現でした。もちろん皆さん十分ご存知の言葉だと思いますが、私自身ビジネスを考えるとき「我々のこの技術をどう売るか。誰が買ってくれるか」というシーズ発想のみが先行しがちだと感じます。講演者の戦略方向性の考え方の紹介の中で「外部内部型」つまり「ニーズを捉え、それに自組織を合わせていこうとするもの」という説明がありました。“変化に対応するものだけが生き残る”という言葉は昨今よく聞かれますが、本当の意味で柔軟に自社の仕組みを変えて市場に対応して行こうという態度が、本当に自分で自然に出来るか、自問させられました。
 日本の産業・技術を支える中小企業が今後の活路を海外に見出そうとして、大企業とは異なるアプローチを実際に行っている実例紹介は非常にタイムリーであったと感じています。

 出席者の方々の声として、プロジェクトの実例報告を求める声も多数いただいていますので、今後の企画でさらに検討していきたいと考えます。
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