例会部会
次号

「第137回例会」報告

PMAJ例会部会 中前 正: 6月号

【データ】
 開催日時:2010年4月23日(金) 19:00~20:30
 テーマ:「サステナビリティ志向のP2M ‐ 総合的価値創造に向けた意思決定と行動」
 講師:青山学院大学総合研究所 客員研究員 梅田富雄氏


 今回は、長年、プロセスシステム工学の分野で研究開発と業務への応用に従事してきた梅田富雄氏(以下、「講師」と表現)を招き、近年話題となっている「サステナビリティ(持続可能性)」をキーワードに、今後あるべきプロジェクトマネジメントやプロジェクト・プログラムマネジメント(P2M)について講演していただきました。
 まず、最初に講師から、参加者に対して簡単なアンケートが行われました。この内容については、このレポートの最後にご紹介します。
 現在、地球温暖化問題が連日メディアを賑わしており、多くの人々が関心を寄せています。そして近い将来、PM関係者は温室効果ガスの削減など、プロジェクトの遂行に際して環境への貢献を要求されることと仮定します。そこで、従来の考え方から脱却した「サステナビリティ志向のプロジェクトマネジメント」への準備が必要、というところから講演はスタートしました。
 「サステナビリティ志向」という言葉は少々わかりにくいですが、講師はこの言葉に、2つの意味が含まれていると指摘します。
 ・企業の持続性に関わるサステナビリティ
 ・地球環境保全性に関わるサステナビリティ
 その上で、企業活動のライフサイクル全体(計画、設計、運用)にわたって、「環境負荷を軽減しながら、収益性を確保していく」ことが求められるといいます。
 上述のような導入の後、講師から、多くの参考文献が紹介されました。印象に残ったのは、”MAXIMIZING PROJECT VALUE”(※1)の一節、
        Project success = (on time + on budget) × business value
という公式です。プロジェクトは計画した時間どおりに、予算どおりに進めることも重要ですが、それにbusiness valueを乗じ、プロジェクトを総合的に評価すべきであると説いています。「プロジェクトの成功とは何か」という命題に対し、一石を投じる文献となっています。
 さて、「サステナビリティ志向のプロジェクトマネジメント」の話に戻りますが、言い換えれば「経済成長」と「地球環境保全」、この2点の同時達成を念頭においた事業活動といえます。そのために企業としての行動規範を整備し、合理的な意思決定を行っていくことが重要と述べられました。そのための指針や、P2Mの技法と関連させた詳しいノウハウが紹介されましたが、詳細はここでは割愛させていただきます。
 最後に、まとめとして、プロジェクトマネジャーとプロジェクトリーダーの違いについての説明がありました。単なる秩序づくりや安定性を確保する役割(マネジメント)と、ビジョンを掲示し、チームに創造的な着想を注入する役割(リーダーシップ)、この違いを理解し、リーダーとしてふさわしい器量を身につけること、これがサステナビリティ志向のプロジェクトを成功に導く上で重要だということです。
 以上、数多くの重要な視点が盛り込まれた、非常に内容の濃い講演でした。変化の激しい社会状況において、プロジェクトを担う私たちが今後考えるべきことは何なのか。ここで、冒頭にご紹介したアンケートのお話に戻ります。内容は、以下のような設問でした。
    ●あなたは、どのような観点の持ち主か?
      ①新しいプロジェクトを検討するとき、最初に考えるのは、コストか利益か
      ②利益と進歩のどちらを重視しているか
      ③どちらかを選ぶとしたら、富と名声のどちらをとるか
      ④引っ越しを伴う昇進を打診されたら、承諾する前に家族と相談するか
      ⑤大きな池の小さな魚でありたいか、小さな池の大きな魚でありたいか
 講師いわく、あなたは安定を望む人か、それとも発展を望む人か、このアンケートで多少見えてくるとのことです。
 今回の例会に参加されたみなさま、そしてこのレポートを読まれたみなさま。一度、自身が担当しているプロジェクトを振り返って、「サステナビリティ」についてじっくり考えてみる時間を設けてはいかがでしょうか。

※1 Jeff Berman, Maximizing Project Value: Defining, Managing, and Measuring for Optimal Return, AMACOM Books, 2006
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