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ODAプロジェクトというと、ちょっとウサンクサイ感じがしますか?

アイ・シー・ネット株式会社 伊藤 毅 [プロフィール] :7月号

私はそのODAプロジェクトに携わる「開発コンサルタント」という仕事をしています。ODA(政府開発援助)はJICA(国際協力機構)が主管する政府の事業ですが、実際に途上国の現場でプロジェクトを実施しているのは、我々のような民間のコンサルティング企業や、省庁とその関係機関から派遣される「専門家」と呼ばれる人たちがほとんどです。

ODAプロジェクトは大きく、インフラ案件と技術協力案件に分けられ、インフラ案件は、道路や橋梁、港湾の建設や、上下水道の修復、電力供給関連施設の建設など、様々な「ハードもの」が含まれ、いわゆるエンジニアリングの世界です。一方、技術協力案件には、公共医療サービスの改善、教員の育成、農業技術普及の改善、あるいは貧困地域の総合開発プランの策定などがあり、途上国の行政機能やサービスの改善を目的とするものです。

実は余り知られていませんが、この技術協力プロジェクトはとてもややこしいものなのです。ご存知のように、プロジェクトと言うからには、達成目標の明確な設定と厳密なスコープ定義が必要です。しかしODAの技術協力プロジェクトの場合、その開始時点では、目標もスコープも詳細かつ明確な定義がほとんどない、というのが現状です。大まかな想定はありますが、詳しいことは現地に行ってから決める、というのがよくあるパターンです。確かに、子供の学力を実際に見てみなければ塾での指導方針も分からないのが当然であるように、技術協力プロジェクトも、事前の準備段階では本当になすべきことが何なのかはまさに「予想」でしかないのです。ですので、我々がODAの技術協力プロジェクトを受注した後、最初にやらなければならないのが、目標とスコープの明確化なのです。受注して予算も決まってから目標を定めるという、通常とは逆の順番でプロジェクトが始まります。

これに輪をかけて事態をややこしくしているのが、契約関係です。日本のODAは、「要請主義」を掲げています。どういうことかと言いますと、そもそもプロジェクト自体は先方政府の発案としてすでに存在し、日本政府は先方政府からの要請に基づいて、その実施を支援する、という考え方です。ですので、日本政府と先方政府の間で合意される文書には、日本側が派遣するプロジェクトメンバーのトップを「チーフ・アドバイザー」として記載します。プロジェクトマネージャーではないのです。ところが、JICAと我々コンサルティング会社が契約を結ぶ際には、プロジェクト目標を達成することを仕様として求めてきます。このJICA、コンサル企業、先方政府という三者の間の関係性は、往々にして曖昧模糊としています。

また別の面の難しさもあります。一つの問題が他の様々な問題と複雑に絡み合っているのは日本も途上国も同じですが、一つ一つの問題を解決する能力が低いわけですから、ひとつのプロジェクトの効果が次につながっていく可能性が必ずしも高くありません。プロジェクトでせっかくモデル的な事業を起こしても、その成果を先方政府に引き継いだ途端に立ち行かなくなるというケースはごく普通にあります。サービスモデルでの価値の実現を成し遂げることが非常に難しいのです。ですので、個別のプロジェクトで取り組めることには限界があります。JICAも最近は、ODA事業のプログラム化に取り組み始めました。しかし、一つ一つのプロジェクトがここまで述べてきたような状況ですから、プログラム化といっても、その道のりはたやすくないと想像されます。

それでも、ODAプロジェクトに携わる者として、品質の向上への継続的な努力をあきらめてはならず、私の会社ではP2Mへの取り組みを決めました。現在では社員の約3分の1が資格を保有し、社もPMC研修の認定教育機関として認めて頂きました。これらの取り組みを通して、社全体での、プロジェクトマネジメントに関する基本的な知識の普及、あるいは用語の統一、さらにはマネジメント知識の実務への部分的活用という点で効果があったと思います。しかし、ここまで述べてきましたようなODAプロジェクトの特異性、あるいは途上国という不確実性の高い現場でのマネジメント、機能・能力・サービスの改善という目標の立てにくい性質の事業など、困難はまだまだ大きく、これから解決していかなければならないことは山のようにあります。私が歳を取って海外の仕事ができなくなるまでには、ODAプロジェクトのマネジメント標準スタイルをぜひ作ってみたい、というのが私の今の夢です。
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