図書紹介
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「天地明察」
(沖方丁著、角川書店、2010年03月05日発行、第5版、475ページ、1,800円+税)

デニマルさん:7月号

本の販売促進には、色々な方法がある。一般的には、新聞や雑誌等のメディアを活用した出版元の広告・宣伝である。だから毎日の新聞広告欄には、本や雑誌の宣伝が多い。更に本の話題性を高めるために、著名人やタレントの本を出版したり、確実に注目を集める秘策もやっている。それが芥川賞や直木賞等の受賞作品の発表である。その為か最近色々な賞が出てきた。「本屋大賞」もその一つである。この大賞は、全国の書店員が選んだ一番売りたい本という趣旨で7年前に設立された。この賞の特長は、書店員自身が自分で読んで「面白かった」、「お客様にも薦めたい」本を選んでいる。今回紹介の本は、今年度の本屋大賞を受賞している。競争作品の中には、「1Q84」(村上春樹著)や、「新参者」(東野圭吾著)等の話題作が含まれていた。そんな中で選ばれた作品である。前段が長くなったが、ベストセラーを凌ぐいい作品である。何がどう面白いかは、読んでのお楽しみである。

天地明察(歴史編)   ―― 日本の暦の歴史 ――
暦は、中国経由で朝鮮半島(百済)から飛鳥時代に日本に伝わってきた。当時は太陰暦(現在は太陽暦)で、その暦で国の公式行事や生活が営まれていた。しかし江戸時代に入って、暦と日食等の天体の動きが合わないことが分かり、暦の改定気運が高まってきた。そこで旧来の暦(宣明暦)から、日本独自の暦(大和暦)に改められた。時に1685年、その経緯をこの本が書いている。日本人による日本の為の暦の歴史を分かり易く纏めた良書である。

天地明察(人物編)  ―― 渋川春海とは ――
主人公は、渋川春海((1639―1715)という天文暦学者である。この本は、主人公の少年期の生い立ちから書いている。幕府の碁方(安井家)の子として生まれたので囲碁棋士なのだが、他に数学や天文暦学、更に神道学も学んでいる。学問だけでなく、当時の暦(授時暦)に基づいた幕府の緯度計測隊に参加し全国各地を測量している。その結果、日本に合った「大和暦」を作成したのが渋川春海である。だが、その暦も簡単には決まらなかった。

天地明察(雑学編)  ―― 暦は自然と算術の明察 ――
暦と日食等の天体運動は、合致するのが当然である。しかし、主人公はその予測計算を間違った。そのため3度目の申請で朝廷から採択が下されたのだが、その決定根拠は、暦の予測と天体運動(自然現象)が一致したからである。算術では、問題と答えが一致した時に「明察」という。当時の暦(大和暦、正確には大陰太陽暦)が、近代日本の暦の原型となった。現在の暦(太陽暦、グレゴリオ暦)に決定されのは明治時代に入ってからである。

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