「葬式は、要らない」
(島田裕己著、幻冬舎新書、2010年02月26日発行、第6刷、186ページ、740円+税)
デニマルさん:6月号
この本は、日本の旧来からの冠婚葬祭に一石を投じたものである。特に、経済的に低迷している昨今でも冠婚葬祭だけは、従来の派手なままであるように思える。昨年の第81回アカデミー賞の外国語映画賞に「おくりびと」が選ばれた。これは日本の映画史上初の快挙である。勿論、日本のアカデミー賞でも最優秀作品賞を受賞している。この映画は葬式の納棺師をテーマとした話である。そういえば、15年前に同じ日本アカデミー賞を受賞した「お葬式(伊丹十三監督)」もこの類の映画であった。日米のアカデミー賞の受賞があって出版された今回の本は、タイミングが良かったので話題を呼んだのかも知れない。最近、筆者の友人が墓地を探していて、この時代に親子代々の墓が本当に必要かと考えた結果、樹木葬か海に散骨する考えに至ったという。だから葬式は要らないということではないが、この本から葬式とは何か、葬式の持つ意味等々を考えてみるのもいい機会かも知れない。
葬式の要らない理由(その1) ―― 経済的問題 ――
人が亡くなれば、必ず葬儀が営まれる。それは世界中どこでも一緒である。異なる点は、宗教や宗派からくる習慣的なシキタリにある。著者は、この本で儀式である葬式を要らないと言っている訳ではない。葬式の費用が問題であるという。現在、日本の葬式平均費用が200万円を超えている。イギリスで12万円、韓国で37万円、アメリカでも44万円弱である。余りにもお金を掛けすぎているので、そんな華美な儀式は要らないと説いている。
葬式の要らない理由(その2) ―― 誰のための葬式 ――
日本の葬式費用が高額になった点について、分不相応な「世間体」にあると指摘している。亡くなった人を弔うその儀式の「見栄」が、葬式から納骨、その後の供養までの費用を高額にしている。特に、日本にしかない「戒名」のランクは、数万円から数百万円まである。その「戒名」ランクに応じた葬式となるので、最終的には高額になる仕組みである。遺言がなければ、葬式の「世間体」を最も意識しているのは、儀式を営む生きている人である。
葬式の要らない理由(その3) ―― 葬式は本当に要らない? ――
著者は、日本の葬式が他国に比べて高額であり、だから題名にある通り「葬式は要らない」のではなく、分不相応な華美な葬式は不要であると書いている。ならば「理想の葬式とは何か」について、著者の恩師の例を披露している。それは、故人の預貯金の処理も含めて、遺族が困ることのないように死の準備を整えて、最後まで自分を全うすることだという。その結果、その人の生き方が反映される葬式なら、見栄や形式は要らないと結んでいる。
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