図書紹介
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「日本辺境論」
(内田 樹著、新潮社、2009年12月20日発行、第5刷、255ページ、740円+税)

デニマルさん:5月号

久々に話題性の高い本の紹介です。昨年、最も話題性が高かった本は、「1Q84」(村上春樹著、2009年8月紹介)であった。特別な賞を受賞した訳でもないが、著者と発売方法と内容等で空前のヒット作となった。今回の本は、2010年新書大賞を獲得している。この賞は、中央公論社が主催して、その年に刊行された全ての新書(1500冊以上)から、書店員、書評家等の選考委員によって選ばれる「最高の一冊」である。売れ筋では、「しがみつかない生き方」(香山リカ著)がトップであったが、この本は12位である。だから人気ではなく、本の内容から選考されている。因みに、昨年10月に紹介した「ルポ貧困大国アメリカ」(堤未果著)も2009年度の受賞作品である。今回紹介の著者は、大学教授で専門がフランス現代思想だが、著書やブログ(内田樹の研究室)を見るとユダヤ問題から映画論、日本人論と分野も広く、更に合気道六段、居合道と杖道三段の武道家と紹介されている。

辺境論(その1)   ―― 辺境とは? ――
この本の主題である辺境とは、「中央から遠く離れたくに境、またその地。辺界」(広辞苑)とある。ならば日本はどこから離れた辺境なのか。地政学的にアジア大陸(特に中華思想の「中華」に対して)を中心に考えると日本は辺境に見える。確かに、歴史的に仏教や漢字等の文化が中国やインドから日本に伝ってきている。この辺境性が日本の文化の底流にあり、その後の日本人思考の原点となり今日に至っていると分析し、この本で述べている。

辺境論(その2)  ―― 日本人の辺境性?? ――
日本人は、日本論、日本文化論を好んで論じる人種であるらしい。その為か著者は、「辺境なるが故に、何かの中心や原点を知りたがる国民性がある」と書いている。日本の独自の主張を述べずに他国はどうかと廻りを気にして、いつも自信なくキョロキョロしている。辺境のヒガミか劣等感が常に付き纏っている。この国民性は、急には変えられない。そこで、この考えを逆手にとって珍しい国を主張する国民ではどうかと著者は主張している。

辺境論(その3)  ―― 日本文字の辺境性??? ――
日本の辺境文化に関し、色々な事例を紹介している。その中に日本語の文字の成り立ちの特殊性が、辺境性をよく証明していると書いている。漢字は中国から入ってきたが、その漢字から二種類の日本文字が生れた。それが「真名」と「仮名」であることは、学校の歴史で学んだ。外来の漢字が「真名」、即ち『正統』の座を占めて、本来の音声文字の日本語が「仮名」と『暫定』に置かれた。これが日本語の辺境語的構造であると締め括っている。

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