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「親鸞(しんらん)」上・下巻
(五木寛之著、講談社、2010年01月01日発行、第1刷、上巻:310ページ、下巻:318ページ、上・下巻共1,500円+税)

デニマルさん:4月号

この本は、著者の久々の長編小説である。四季・奈津子から亜紀子(2000年)以来の長編で、その後「百寺巡礼」や「21世紀仏教への旅」等、仏教思想を背景とした美術、歴史の文芸評論を書いている。その関係から2004年には仏教文化賞を受賞されている。著者は、他に歌謡曲の作詞も書いていて、松坂慶子の「愛の水中花」、五木ひろしの「ふりむけば日本海」、藤田まことの「夜のララバイ」等多数のヒット曲を出している。今回の「親鸞」は、過去に多くの作家が書いている。因みに、アマゾンで検索すると1526冊あった。古くは、倉田百三の「出家とその弟子」や吉川英治の「親鸞」等々。最近では、津本陽の「弥陀の橋は、親鸞聖人伝」がある。著者は、この本で親鸞の幼年期から越後への流罪となる所までの期間、法然上人の「真の宗教である浄土宗の教え」を高めるまでの活動を書いている。

忠範(ただのり)から範宴(はんねん)   ―― 幼年期から出家まで ――
この本では、親鸞の幼名を忠範としている。誕生は、1173年(承安3年)であるが、正確な歴史上の記録検証が成されていないという。9歳で天台宗に入門した時点で「範宴」と称されていた。その幼子が直ぐに入門しないで、翌日に延ばすことを説かれて、「明日ありと思う心の仇桜、夜半に嵐の吹かぬものかは」と詠まれた伝説を紹介している。その後親鸞との関係が深まる葛山犬丸や乞食坊主の法螺房弁才等の出会いがドラマチックに展開する。

綽空(しゃっくう)から善信(ぜんしん)  ―― 修行から再入門 ――
親鸞は延暦寺に出家後20年の厳しい修行を重ねたが、自力修行の限界を悟り比叡山を下山(決別)した。その後、聖徳太子の建立された六角堂で百日参籠の修行中、救世菩薩のお告げを受ける。そして法然上人の「専修念仏」の教えに触れて、改めて再入門して「綽空」の名が与えられた。この時期に妻帯するが、その経緯を宗派の教えと愛の葛藤を乗り越える情況を巧みに描いている。そして法然上人から善信と告げられ新たな出発を決意する。

藤井善信(ふじいぜんしん:俗名)から親鸞  ―― 法難から越後へ流罪 ――
「専修念仏」の教えが多くの人の信頼を集める中、比叡山や他宗派の僧徒から「停止」の訴えが出され、朝廷がそれを決定した。それが「承元の法難」といわれ、法然上人と親鸞は流罪となり、同時に僧籍剥奪されて、俗名が藤井善信となった。その後、越後から東国にかけて布教活動をするが、このことは書かれていない。因みに、親鸞の名は、インド天親菩薩の「親」と曇鸞大師の「鸞」からとられ、浄土真宗の宗祖として現在に至っている。

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