リレー随想
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求められる「擦り合わせ」の姿

研究委員会委員 笹部 進: [プロフィール] :6月号

 ディジタル技術の進歩により、システムは益々複雑化し、そのシステムを実現するプロセスも同時に複雑化している。かつてはハードウエアのみだったが、ハードウエアに組み込まれるソフトウエアが急増しているのはその例である。複雑化に伴って安全性問題を生じさせることなく、複雑化に見合う以上の価値を創造しうることが、複雑化を許容する大きな動機である。
 今回の報告では、複雑な状況を「擦り合わせ」技術によって上手く解決できることを示した。そして、「擦り合わせ」を、前向きの擦り合わせと後向きの擦り合わせの2つに分解し、前向きの擦り合わせに注力すべきであること提案した。日本は「擦り合わせ」に長けていると言われていることも、この提案の背景にある。
 しかし、「擦り合わせ」に長けていることは、逆に落とし穴でもある。器用な擦り合わせが、逆に器用貧乏になりかねない。複数技術を扱うハイブリッド技術は、「擦り合わせ」がないと成立しにくいが、ハイブリッド技術に頼りすぎると、擦り合わせコストが負担となり、ひいては単一技術によって攻められると自滅する恐れがある。
 「擦り合わせ」の際に大切なことは、器用に擦り合わせる以前に、できるだけ「擦り合わせ」ないこと。ハードウエアで解決できることは、まずハードウエアで解決する。さもないとハードウエアとソフトウエアを擦り合わせている間に、競争相手に遅れをとりかねない。
 しかし、どうしても「擦り合わせ」が必要な場面は残る。例えば、複数のシステムまたはシステム要素を包含する統一理論や手法が存在しないか、あっても、それらが複雑になりすぎる場合である。この場合は、やはり「擦り合わせ」は現実的な手段である。「擦り合わせ」の対極は「組合せ」であるが、「組合せ」では、組み合わされるシステムまたはシステム要素をすべて包含する技術が確立していると言える。
 まとめると、求められる「擦り合わせ」とは、システム単独、またはシステム要素単独では目標突破が困難な部分に対してのみ適用する「擦り合わせ」のことである。この積極的で前向きな「擦り合わせ」においては、お互いにある意味で「自己研鑽」したうえで、「擦り合わせ」に臨む姿勢が重要と考える。その姿勢とは、
  ・自己のプロセスの限界と弱点をよく理解していること。
  ・何がお互いのプロセスの成果物を左右するかを知っていること。
  ・お互いに限界と弱点を明らかにすること。
言いかえれば、相手を思う姿勢であり、自己に謙虚な姿勢である。
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