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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜外国人と上手く接する力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 プロジェクトリーダーやプロジェクトメンバーとして外国人と接する際、何を心がけたらいいのだろうか。まず、何といっても、相手のことを知らなくては話にならない。個々人としての性格や好みももちろんあるが、その国の歴史や風土や政治の在り方などで、一般的な国民性の特徴が形成されているからだ。
 今回は、私が先月末に一週間シカゴに滞在する中で見聞きしたアメリカ人の特徴を紹介したい。ASTD 2010 International Conference & Exposition(ASTD = American Society for Training & Development)という人材開発に関するカンファレンスに参加したのだが、異文化理解という意味で非常に参考になった。アメリカを含む70カ国から計8,500名が参加したこともあり、海外からの参加者に対するオリエンテーションが初日にあった。一般的に、アメリカ人はわが道を行く人が多く、異文化に大きな関心を持っていないが、さすがに「学び」をテーマとしたカンファレンスだけあって、異文化コンサルタントの方が、「アメリカ人を理解するための知識」を説明してくれた。
 アメリカ人自身が自分たちの国民性をどう表現するのか、わくわくしながら、話を聞いた。様々な点が挙げられた中から、アメリカ人と接する際に知っておくと役に立つものをあげてみたい。日本では、名刺は個人を表すものであり、大切に扱うように教えられる。新入社員向けマナー研修にも欠かせないテーマだ。ところがアメリカ人にとっては、名刺は後で何か連絡したい時などに参照するための「リソースのツール」にしかすぎないという。だから名刺の扱いも丁寧でなく、片手で受け取ったり、名刺交換の場で裏にその人に関する情報を書いたり、あるいは、ズボンのポケットにしまったりする。セミナーの講師も、自分の名刺を机の上に山積みにして置き、それを皆が勝手に取っていく形にしていた。もちろん、日本企業と頻繁に接しているアメリカ人ならこの限りではないが、多くのアメリカ人は国際経験に乏しいというのも事実だ。だから、仮に自分の名刺をぞんざいに扱われたとしても怒るのではなく、それがアメリカでのやり方なのだと受け止めるようにしたほうがストレスを感じなくてすむ。
 英語を上手く使うことができない人に対する配慮に欠けるアメリカ人が多い、という話もあった。皆さんも経験はないだろうか。こちらが理解している、あるいはしていないに関係なく、とにかく早口でしゃべりまくるアメリカ人に遭遇した場合に心を穏やかに保つためには、彼ら・彼女らが悪気があってそのように話をしているわけではないと知ることだ。単に英語が話せない人に対する理解が不足しているだけだ。そういう人に対しては、定番のPlease speak more slowly.(もう少しゆっくりお話してください)に加えて、多少なりとも相手の話を理解できたのなら、I think you said xxx. (xxxとおっしゃったと思うのですが)といった具合に、言い換えてみて相手に確認してもらえばいいというアドバイスがあった。
 「ポジティブに物事を捉える」指向も強い。セミナーなどでは、すべての人が何らかの有意義なインプットができる、との考えのもと講師は受講生からの質問やコメントを期待する。実際、参加したセミナーの多くで、受講生もその期待に応えて、積極的に意見を述べていた。自分が持っている「素晴らしいアイデアを共有したい」という気持ちで一杯なのだろう。ちなみに、外国人もなまりのきつい英語でとうとうと意見を述べていた。私はといえば、英語が得意であるにもかかわらず、ちゃんとした意見を言おうと考えているうちに、意見を言う機会を何度も逸してしまった。周りの人々の意見や質問の中には取りたてて優れていない、というものもあったのに。どうも我々日本人は、いい格好を見せようとするきらいがある。
 WIIFM =What’s in it for me? (私にとってどんなベネフィットがあるの?)という考え方も紹介された。行動する場合、その活動の目的、達成したいことをはっきりさせ、その目的が自分に利点をもたらさないと判断すると、いとも簡単にその活動を止める。シカゴでは複数のセミナーが並行して行われていたが、セミナールームへの出入りも完全に自由だった。講師も、受講生が話の途中でおもむろに立ち上がって出て行ったとしても、無礼だと腹を立てるのではなく、たまたまその人にとってより適切なセミナーがあったのだと、受け止める。一方で、自分のセミナーを聴いてもらっている人に対し、セミナーを興味深いものにするために、精一杯の努力を払う。一方的に話すのではなく、受講者の参加を促し、共感を得るために、ストーリーや比喩を活用する。その努力は、敬意を表するに値する。
 ざっと数十分の説明だったが、「無知」による不要なストレスや誤解を防ぐ効果はあった。相手を知ること、それが、外国人と接するにあたっての出発点だということを改めて実感したオリエンテーションだった。
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