関西P2M研究会コーナー
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「ソフトウェア組織のPM〜昨日・今日・明日〜」

中江 正雄 [プロフィール] :5月号

1.プロローグ
 昨年長年勤めたソフトウェア会社で定年を迎えた。永くもあり短くもあり振り返れば感慨深いものがある。その多くをマネジメントに関与してきたが、これからは少し楽しみながらこれまでの経験を生かして何かのお役に立てればと思っている。そんな私が社会人になった頃はちょうどソフトウェアがビジネスとして台頭してきた頃である。企業の電算室が独立してできた会社や自ら起業した会社が雨後の竹の子のように誕生した頃で世は正にコンピュータ時代という華々しい時代であった。いらい以来高度成長も手伝って、一時のバブル経済の崩壊を除けば成長の一途をたどり今や市場規模は14兆円、当時から比べて100倍近くにまで成長した。しかしながらここ数年成長は横ばいで、むしろ利益率は低下して、リーマンショック以降は非常に厳しい状況にある。一部に市場の成熟化とみる向きもあるが、散見される幾つかの事象から、むしろ歴史的な変化点を迎えたのではないかと思う。そんな折に定年を迎えて良かったのか悪かったのか、少なくとも渦中の諸兄よりは事態を冷静に受け止められるし、また及ばずながら奮闘努力してきた者として変化を見届けるのも楽しみでもある。そんなこともあって少々大所ではあるがこれまでを振り返りソフトウェア組織のマネジメントの昨日、今日、明日を考えてみたいと思う。

2.コンピュータの時代
 社会人となってからの20年はハードウェアを中心とする時代であった。当時は今の計算機のアーキテクチャを確立したIBM360が世に出て間のない頃である。依頼ハードウェア技術の進化は正にドッグイヤー、とりわけ半導体の集積度は指数関数的に向上し、集積度の向上に合わせてソフトウェアの規模も大きくなっていった。当時のソフトウェア開発は大型汎用機を頼っての開発である。プログラムをカードに打ち込み計算機室に預けて翌日に結果を受けて正して行くプロセスであった。それだけに出来栄えや進捗は個人の能力と計算機の混み具合が拠りで、ソフトウェア組織のプロジェクトマネジメント(以下PM)は、こうして個人の計画を管理することから始まった。時代も後半に入るとハードウェアは更に進化し、適用分野や領域の拡大とシステム機能の高度化を齎した。そうなるとソフトウェアもチームで開発するようになり急激に組織が肥大化したが、しかしながら組織の肥大化の一方で品質や生産性、マネジメントの混乱を招きこれに取組み始めたのが標準化である。標準化は、工程毎の全ての作業をカテゴライズしてドキュメント類を定義し、これに生産性や品質の管理手法も加わって開発方法論として体系化されたが、ソフトウェア組織のPMは、この開発方法論の1つとして実践され定義された。CMM流に言えば20年を経てようやく成熟度レベル3である。

3.情報の時代
 1990年に入るとバブル経済が崩壊して、我々の業界にも大きな衝撃を与えた。これまでの大型汎用機を中核に据えたシステムからPC、ネットワークを構成要素とするオープンにしてダウンサイジングなシステムへと一変し、それからの20年は情報の時代になって、組織の行動様式やそのあり方にまで影響を与えた。つまりオープンなネットワークシステムに対応するためにチームを小さくして、チームに裁量を持たせフットワークを軽くしたことによって、階層別組織からフラットな組織に、プロジェクト組織もピラミッド型組織からマトリクス型組織に増えていった。しかしながらマトリクス組織は、迅速な意思決定ができる反面マネジメントが複雑で問題が見えなくなるなどの弊害も指摘されていたこともあって、一方では強力なプロジェクト運営が求められた。そうした求めに応じて対応したのが、これまでの標準化に加え@PMOの設置であり、APMメトリクスの活用であり、BCMMによるプロセスの改善であり、CPMSの構築である。定量化でより効果的に、プロセス改善でより強固に、そしてPMOでより強化され、PMSで効率良く運営され、ここにきてようやくPMの実践モデルとして整備され体系化された。標準化から実に30年目である。マネジメントとはつくづく時間が掛かるものである。

4.最適化の時代?
 ハードウェア・ソフトウェアとマネジメントが成熟した今、人生80年として次の20年はどう進化するのか?ソフトウェアがビジネスとして台頭してきた当初より関わってきた私にとって興味深いものがある。量子計算機、クラウドコンピューティング、電子書籍に電子ペーパ等々最近のIT技術の動向を見れば、高度に張り巡らされたネットワークを通じて情報が今まで以上に生活やビジネスに密着したものとなるだろうし、知や個の多様化に合わせてこれを使い切ることによって競争優位の源泉が生まれてきそうである。ソフトウェアビジネスも作る時代から使う時代に変化し、経営にまで踏み込むまでの高度な能力と極めて先進的なアイデアの創出が求められるのではないだろうか。となるとこれはもう今までの延長戦上ではなく新たなマネジメントへの転換が必要で@経営陣の次元の高い目的の達成、A貢献の重視の経営哲学の見直し、B自律を促す管理手段への変更、Cコラボを促すリーダシップへの見直し、D組織の小集団化等々これまでのマネジメントをマネジメント1.0とするならマトリクス型組織のマネジメント2.0への変革が必要であるという。どうやら次の時代は人間力とPM力がものを言いそうである。
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