関西P2M研究会コーナー
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「成功を大切にする中国人」と「失敗を大切にする日本人」

パナソニック株式会社 人材開発カンパニー 小藪 康 [プロフィール] :4月号

 昨今、日本企業のグローバル化について活発な議論が交わされています。
 この議論はかなり以前からなされていましたが、国内需要の低迷の状況が鮮明になってきた今日に於いて、各企業とも喫緊の問題として、より鮮明にこの状況をとらえ始めているのではないかと思います。
 このグローバル化の流れは、昨今は私の業務にも確実に影響を及ぼしており、以前はあまりなかった外国人社員を対象としたプロジェクトマネジメント研修を実施する機会が増えつつあります。
 その中でも受講生として参加される割合が多いのは、中国人の方々です。
 この方々との接触を通じてプロジェクトの成功例と失敗例の捉え方に関して、日本人との違いについて気づいたことがありますので、本文ではそれを述べさせて頂きたいと思います。
 ただ、ここに記載させていただくことは、あくまでも私の私見に基づくものですし、私が経験した少数の事例の範囲の話ですので、それらに対して異論をもたれる方がいらっしゃるとすれば、御容赦頂きたいと存じます。
 私が実施しているプロジェクトマネジメントに関する研修講座の冒頭のところで、受講者自身に、自分で経験したプロジェクトの成功例と失敗例をワークシートに記述していただくという演習を実施しております。
 この具体的には、2枚のワークシートを配布し、1枚に成功例、もう1枚には失敗例を記述していただくという様な進め方をしております。
 成功例と失敗例の書く順序に関しては、特に、指定はしておりません。
 しかし、何回かこの講座の講師を担当しておりますと、日本人と中国の方では、この2枚のシートの記入の順序に違いがあるということが経験的にわかってきました。
 具体的にいうと、日本人は、大半の方がまず失敗例から取り掛かります
 失敗例のシートは比較的スムーズにかつ、その失敗内容に関しても詳細に記入されます。
 しかし、もう1枚のシートに成功例を書き始めたところで、ふと、筆が止まり、そこからは、なかなか筆が進まず、何を書くべきか散々、逡巡されている様子が伺えます。
 そして、演習時間の残りが少なくなったところで、ごく控えめに成功事例を記載されることが多いです。
 中には、演習時間が終わっても、成功事例は白紙のままで、「イヤー、あんまり成功事例といえるような経験ってないんですよね」などと、恥ずかしそうに頭をかきながらおっしゃられる方もいらっしゃいます。
 一方、中国の方々はどうかというと、ほとんどの方は、まず成功事例のシートから記入を始めます。
 そして、その内容に関しても正々堂々と、具体的かつ詳細に記入されることが多いです。
 その後、失敗事例のところでは、日本人と反対に、筆が止まりがちで、なかなかうまく進まず、何とか時間内に記入を終わるという方が多いというのが実態です。
 このような現象が起こるのは、おそらくそれぞれの国民性というか自分の経験から何を学ぶかという考え方が、両国の国民で相違があることが原因になっているのではないかと思います。
 日本人は、過去の失敗を重く受け止めて、同じような失敗を再度繰り返さないように、反省することが多い国民ではないかと思います。
 それに対して、中国人は成功例からしっかりと学び、そこから次の成長へつながる経験を紡ぎ出しているのだと思います。
 これを単に「日本人は失敗をくよくよと考える悲観的な国民」で「中国人は終わりよければと考える楽観的な国民」などと片付けてしまうことは、簡単です。
 しかし、これには、もっと深い意味があると思います。
 経済環境が比較的安定し、確実な成長が約束されていた時代においては、日本人が失敗から学ぶのが得意な国民であることは、過去の経済成長の結果から見ても、ある側面では大変価値のあることであったと思います。
 一方、中国では、我々より遙かに長く、多民族が入り混じって興亡を繰り返してきた変化に富んだ歴史の中では、過去の失敗事例を参考にした「べからず集」だけでは、大きなパラダイムシフトに対応することが出来ず、むしろ「ベストプラクティス」を前向きに活かしてイノベーションを興して行くことが有効であることを学んでいるのではないかと考えます。
 経済環境が大きく変わり日本の産業に大きなイノベーションが求められている状況となっている昨今では、失敗を振り返ることを大切に考えるという従来からの特性に付け加えて、自分たちの成功の結果を振り返りながら、そこから学んだことを有効に活用していくことも重要なのではないかと思います。
 昨今はいろいろな側面で、マスメディアなどで日本人が自信を失っているといわれていることを多く目にします。
 このような状況を打ち破り、再び日本人が自信を取り戻すためには、過去の成功事例や世界に誇れる特性を、過大評価ではなく、冷静な目で分析し、そこから、正しく教訓を生かしていくことも大切なのではないかと思います。
 成功からも失敗からも正しく謙虚に学び、そこからイノベーションを起こしていける国際人を輩出していくことが、天然資源に乏しいながらも、均質で勤勉な労働力をいう貴重な資源を持つ日本が、その資源を有効活用することにつながり、それが将来の日本の国際競争力を高めていくことにもつながるのではないかと考えます。
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