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「システム思考リスクマネジメント手法 (5) - アイスランドの火山噴火から考える」

河合 一夫 [プロフィール] :5月号

 今回は,リスクシナリオをリスクメタ言語にしたがって記述することについて述べる予定であった.しかし,少し予定を変更する.筆者は,4月10日から16日までイタリア旅行をする予定であった.しかし,4月14日のアイスランドの火山により帰国日である4月16日にはローマ空港が閉鎖され帰国できなくなってしまった.それから8日間,ローマ郊外の小さなホテルで飛行の再開を待たねばならなくなった.その際,少し考えたことに関して,本稿では述べてみたい.
 本稿で述べているリスクマネジメント手法は,HHMからリスクシナリオを識別し,発生頻度と影響度によりリスクシナリオをマップし,重要なものに対する対処を立てるというものである.今回の,火山噴火による大規模な空港閉鎖による航空網のストップは,想定をしていない状況が発生したものと考えられる.しかも,火山の噴火による空港閉鎖から通常の運行までにはさまざまな状況変化があり,リスクも変化をしていった.そのことについて少し考えてみたい.
 まず航空交通網に関するHHMの例を以下に示す.ここに示すHHMは非常に簡単なモデルとしている.

航空交通網に関するHHMの例

 このHHMから,いくつかのリスクシナリオが思いつく.例えば,「霧のため空港が閉鎖され,航空機が飛ばない」,「管制システムの故障により空港が閉鎖され,航空機が飛ばない」といった影響度や発生頻度が中程度のものである.これらをリスクシナリオタイプ1(RS1)とする.次に,「火山噴火による灰が広範囲に渡り,航空規制により多くの空港が閉鎖され,航空機が飛ばない」というシナリオを考える.これはリスクシナリオタイプ2(RS2)とする.タイプ1とタイプ2の違いは,タイプ1が単一のシナリオで考えることが出来たのに対し,タイプ2は,リスクが一度顕在化すると,次々の形を変えた他のシナリオを誘発していくことにある.


 今回の場合では,火山噴火後,試験飛行を実施し,規制緩和の検討した.結果的に火山が沈静化し,空気中の火山灰の濃度が下がった為,飛行再開が可能になった.しかし,各国の対応がまちまちであったため,早期に空港を開港した国もあれば,フィンランドのように開港を遅らせた国もあり,旅行者に対する影響が大きくなった.
 発生確率は低いが,影響度の大きなリスクは,不確実性が高く,その影響範囲が未知であることが多い.従って,そのリスクが一度発生すると,それに応じて考えてもいなかった新たなリスクが次々に認識される.それらのリスクへの対処を誤ると大きな事故や失敗につながる.今回の場合では,火山噴火後,再開に向けて航空会社は試験飛行を実施し安全をアピールした.しかし,その場合でも全ての航路を確認したわけではなく,また気象条件の変化により大気の状態は刻々と変化している.「試験飛行の結果から,誤った判断がされ,航空再開後,事故が発生する」というリスクシナリオが考えられる.また,「再開後,ある国の上空を飛んだ飛行機のエンジンは支障をきたし,事故が多発する」というリスクシナリオも考えられる.タイプ2のリスクシナリオ(RS2)は,それが一度顕在化した場合,他のシナリオの発生の可能性を導き出す.これを図中に点線で示す.この図では,発生確率は小さいが影響の大きなリスク(火山の爆発による空港閉鎖)から,最終的に「火山灰の影響で航空機に異常が発生する場合がある」というシナリオまでの変化を点線で示してある.
 この点線は『リスクシナリオライフサイクル』とでも呼んだほうが良いかも知れない.リスクマネジメントを実施する際には,一旦発生したら,さまざまな形のリスクを導出しながら変化をしていくようなものが存在することに留意すべきである.ここではこのくらいにして,この問題は別稿で詳細な検討を加えたいと思う.今回は,少し脱線してイタリアに幽閉されている暇な時間に思いついたことを記述した.
 次回は,前回予告した,リスクシナリオの記述からリスクモデルに従ったリスクメタ言語による表現を用いることを説明することとしたい.
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