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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜生産性を高める力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 「工場で働く日本人の生産性は高い。しかし、オフィスで働く日本人の生産性は極めて低い」先日あるセミナーで講師の方はこう述べた後、事務系の生産性を高めるための方法― 部下に仕事を与える際に留意すべき点 ―について講義をされた。
 実際、3月11日付日本経済新聞には、「日本の労働生産性は1970年から現在まで、先進7カ国でほぼ一貫して最下位が続いている」という衝撃的な記事が掲載されている。その理由として同記事は、「経済成長率の鈍化・高齢化の進展、非正規雇用者の増加など」をあげている。私はこれらの理由に加えて、講師の方がおっしゃった「業務の進め方」と、「業務への取り組む姿勢」にも、日本人のホワイトカラーの生産性が低い原因があると思っている。
 自分自身を振り返ってみても、「部下に満足のいく形で毎回仕事をアサインしているか」「毎日高い生産性で仕事をできているか?」と問われると、「否」と言わざるをえない。部下が、私が期待していたようなスケジュールと内容、そして質で仕事を終えてこない時、あるいは、期待するほどの熱意で仕事に取り組んでいない場合、悩む。「どうすればよかったのだろう。どうやったら、もっと生き生きと取り組んでくれるのだろう」と。同じ問いを自分自身にも投げかけている。「なぜ、だらだらと仕事をしてしまったのだろう」
 研修の世界でも「動機づけ」は人気のあるテーマだ。私が受けたセミナーで扱っていた「仕事のアサインの仕方」以外にも、「もともとの職場での関係性を良くする」ことに焦点を当てているものもある。あるいは、「個々人が望んでいることは何か」を知って、可能な範囲でそれが充たされるような状態に持っていけるように支援することをテーマとしているものもある。書店に行けば、PRESIDENT、日経ビジネスアソシエや21を初め、「いかに仕事の生産性やモチベーションを高めるか」という雑誌や本が山のように並んでいる。にもかかわらず、なぜ、日本は「先進7カ国で最下位の労働生産性」なのだろう。
 日本の職場の良さでもある「ゆとり」のせいなのだろうか。必死になって働かなくても、そこそこの暮らしができる今の日本。頑張っても、大きなリターンが期待できない日本。中途半端な成果主義が取り入れられている日本。いろんな理由があるだろう。でも、このままでは、日本は世界で戦っていけない国になってしまいかねない。だから、なんとかしないといけない。
 ずっと緊張感を保ち続けて、心が疲れてしまうような自分や職場でも困る。そうではなく、集中と弛緩が上手くミックスされているような状態を作り出すことができないだろうか。「そこそこの生活を実現する」という目標ではなく、もっと違うところに、働くための動機づけを探す時にきているのだろう。世界の富豪の話が参考になるかもしれない。莫大な財産があっても、スピードをゆるめることなく、働き続ける富豪がいる。彼ら、彼女たちを突き動かしているのは、「世界を変えたい」「世の中から不便なことをなくしたい」といった使命感や、純粋に、「自分が与えられた才能・持てる力を最大限に発揮したい」などの理由だ。
 「自分が持てる力を最大限に発揮できた」時の喜びは大きい。たとえば通訳をやった後、疲労感とともに味わう大きな満足感。通訳をしている間は普段とは違って、脳がフル回転しているのを自分で感じることができる。プロの同時通訳は、必ず二人以上で組み、何分かごとに交代している。交代しないといけないほど、「脳をフル活用する」のだ。あるいは、研修のファシリテーションをしている時に感じる喜び。一方的に話をするのではなく、受講生がどう反応しているのか、神経を研ぎ澄ませて聞き、頭をフル回転させて、それにどんどんその場で対応していく。その時間の密度は、とても濃い。
 週末に受けた50分のエアロビクスレッスンでも、それまでになかった充実感を感じた。男性インストラクターだったのだが、50分間、彼はトランス状態。無駄な話・動きは一切なく、鏡に映る自分の姿に「ほれ込みながら」、彼はレッスンをした。いつもはだらだらとやる私だが、この時は気付いたら、とても集中して、レッスンが終わったら、汗だくだくだった。
 皆さんは、1分を短いと感じるだろうか、それとも長いと感じるだろうか。短いと感じる人が多いだろう。私も、以前は短いと感じていた。先日、「1分間たったと思ったら、手を上げてください」と言われて、手を上げた時の時間が「40秒」だったのを知るまで。1分は、実は、長い。「3分間で、できること」という雑誌の特集を読んだことがあるが、時間の大切さを実感することで、できることは多いはず。世界の富豪に学び、自分の持てる力を最大限に発揮する喜びを知り、集中と弛緩をうまく取り入れることで、労働生産性と満足度を高めていけるようになりたい。
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