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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜P2Mをグローバルに発信する力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :3月号

 P2Mの資格を取得した際、願ったことがある。「日本発のこの体系がグローバルに認知されるよう、貢献したい」と。その願いが最初にかなったのは、10年近く前にフランスのリール大学院でコミュニケーションマネジメントの講義を行った時だ。そして2月に、2回目の機会をもらうことができた。AOTS財団法人海外技術者研修協会が主催した「P2Mをベースとしたプロジェクトマネジメント体系と手法について学ぶフィリピン研修コース」で、日本プロジェクトマネジメント協会の講師として3つの講義を担当したのだ。
 依頼を受けた場合は、チャンスと捉え、できるだけ断らないようにしている。だから今回も、依頼を受けた際迷うことなく引き受けた。これまで教えたことがないリスク・組織・関係性マネジメントが、カバー範囲に入っていたにもかかわらず。協会の方も、「資料は作成します。後は、業務経験にもとづいて魂を入れてもらえればそれでいいです。」とおっしゃっていたので、気楽に考えていた。
 そんな甘い考えは、AOTSの方と打ち合わせをして一挙に吹き飛んでしまった。参加者の経歴と応募シートに書かれたことを見て、想定が全く違ったことに気付いたからだ。何の根拠も無かったのだが、私の頭の中では、なぜか、研修生は大学卒業後間もなくの業務経験がほとんど無い若者だった。ところが、20名近い研修生の肩書は、最低でも課長クラスで、大半がディレクター。プレジデントの方も数名いた。さらに、肩書が私より上なだけでは無く、プロジェクトマネジメントの経験も私よりはるかに豊富で、業種もさまざまだった。
 そんな研修生に何を教えられるのだろう。年末から悩む日々が始まり、英語の本の執筆どころでは無くなってしまった。応募シートをじっくり読んで決めたのは、「教えない」ということだった。幸い研修の仕事をしている関係から「学び」ということについて私なりに経験したり勉強したりしていた。それを基に、「ファシリテーターに徹する」ことにしたのだ。つまり、P2Mの知識体系は、研修生が持っている経験や知識や意見をできる限り引き出すためのトリガーとして使うことにしたのだ。テキストの文字数も思い切って大幅に減らし、イメージ図を多用して、脳を活性化させるようにした。
 そして迎えた当日。少し早目に到着すると、何人かが私の方を見て、会釈をしてくれた。
フィリピンのかたがたと接するのは初めてだったが、彼らが示してくれたフレンドリーさ は、安心感を与えてくれた。講義をするにあたっては、まず何よりも、「私という人間」に興味を持ってもらわなければならない。そこで冒頭、先月号に書いたフィリピンのかたと日本人ランナーの話を基に、私とフィリピンのつながり・今回会える機会をもらったことを大変嬉しく思っているという私の思いを語った。そして、講義中は、一方的に話すのではなく、質問を投げかけ双方向にすることを心がけた。
 この方法は、大正解だった。米国の文化の影響を受けている彼らは、自らも発言し参加することを楽しむ。そのうち、私からお願いしなくても、自ら手をあげ、自分の経験などを皆に共有してくれ始めた。グループワークの後発表もしてもらったが、これまた、ずばぬけて上手な人がいた。フィリピンの方は、エンターテイナーの気質を持っているという。人を楽しませることに、長けている。私の力量不足の部分も、しっかり補ってくれた。私が回答できない質問に対して皆にふると、誰かが答えてくれた。そして、グループワークも私が用意していたものより、もっと効果的なものを提案してくれた。おかげで、私自身も大きな学びがあり、ファシリテーターとしてのスキルも高めることができた。
 初日帰る間際にもらったブレスレットとペンダントを3日後の講義の際も忘れずつけていった。2日目の講義が終わる頃には、私の指にはCourage(勇気)と書かれたパワーリングが、そして首には、セブ島で手作りされているというネックレスが加わった。ネックレスをもらった時に、米国式にその場であけて首にかけたら、とても喜んでもらえた。最後は、「ボラカイ島に遊びに行きます!」というメッセージと、Salamatという言葉で締めくくった。ボラカイ島がリゾートとしてお薦めだというのは、その前の休憩時間に教えてもらっていた。Salamatは、ネットで検索して調べたタガログ語で、「ありがとう」という意味だそうだ。こうしたちょっとした心遣いが、相手の心をつかむのを助けてくれる。「遊びに来るならぜひ連絡して欲しい」、そんな嬉しい言葉をたくさんもらった。
 フィリピンの方が写真好きだというのも、発見だった。何枚の集合写真を撮ったことだろう。準備は大変だったが、それ以上に得るものがある、いい経験を今回させてもらった。田中理事長のご尽力で、P2Mは海外で認知されている。P2Mをより一層グローバルに発信する力に、私もなっていきたい。
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