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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜何かを成し遂げたいと想い続ける力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :2月号

 プロジェクトマネジメントに必要なスキルや知識をプロジェクトマネージャーが持っていれば、それでプロジェクトは成功するのだろうか。いや、それだけでは「魂の無い」プロジェクトになってしまう。反対に、リソースが多少不足していたとしても、プロジェクトを率いる人に熱い想いがあれば、周りの人を動かし協力を得てプロジェクトを成功させることもできる。プロジェクトマネージャーには、「何かを成し遂げたいという想い」を持っていて欲しい。

 NPO法人が進めている銀座ミツバチプロジェクトー聞かれたことがあるだろうか。「NTT東子会社 ビル屋上に花壇」という見出しで日本経済新聞に記事が掲載(昨年の12月25日付)された他、多方面で紹介されているので、知っている方もいるかもしれない。銀座のビルの屋上でミツバチを期間限定で飼い、そこで取れた蜂蜜を使って、銀座限定販売の商品を販売している。 公式ホームページ ( こちら) によると、目的は、「ミツバチの飼育を通じて、銀座の環境と生態系を感じるとともに、採れたハチミツ等を用いて銀座の街と都会の視線の共生を感じること」だ。2004年にテナントビルの役員と農業生産法人の支社長の二人が出会いスタートしたこのプロジェクトは、今では「バーの支配人や、スウィーツのパティシエ、演劇プロデューサー、心理カウンセラー、ランドスケーププランナー、弁護士、アナリストなど多様な職種」のメンバーと地元の会や個人・団体の支援者で構成される、多数のステークホルダーを抱える大きなプロジェクトに育っているという。
 それだけではなく、当初想定していなかった効果も出している。公式ホームページにある「今後の展開 -感じる、つながる、広がる-」というコーナーから関連箇所を抜粋してみよう。「近隣の樹木は確実に受粉してソメイヨシノ他の木々が実を付けました。その結果、出来た実を鳥が食べに戻って来る、まさに命を繋ぐサスティナブルな世界が見えてきたのです。・・・・・・更に、この街の様々な方々が、職業をこえ、世代をこえて、ミツバチを通して、人と人の顔の見える関係が出来ていきました。まさに、ミツバチが人と人とも受粉してくれたのです。」二人の人が出会い抱いた想いが、立場の違いを超えて共感を呼び、新たな関係性を生み出している。

 この「想い」の力について、もう一つ事例を紹介したい。第2次世界大戦によって生じた反日感情が色濃く残っていたフィリピンで1954年に開催された第2回アジア競技大会。日本の選手団の中で、その活躍ぶりと人柄で、地元の人々の心をつかみ、現地のメディアにも取り上げられたのが、陸上ランナーの故南部敦子さんだった。当時マニラの学生で、現在城西大学の客員教授のアルボデーラ氏も、彼女から感動をもらった一人だ。交通事故で若くして亡くなった故南部敦子さんの姿が自分の記憶の中で薄れていくのにいたたまれなくなった同氏はやがて、彼女の写真を入手したいという想いを抱く。そして、数年前に彼が伝えた熱い想いは、彼のために彼女の写真が掲載された当時の雑誌を探し出してくれたフィリピン人だけでなく、日本人の気持ちも動かした。故人の小学校時代の友人としてアルボデーラ氏のコンタクト先となった私の母も、アルボデーラ氏の想いを受け止め奔走し、関係者の協力を得て、彼と故人の98歳の母親と娘との出会いを実現することができた。「写真を入手したい」というアルボデーラ氏の想いは、さまざまな人たちの共感を得て、想像もしていなかった場を創出したのだ。
 この例は、ある個人が抱いた目標の実現の話であり、正式なプロジェクトの話ではない。また、ビジネスの世界では、想いだけでは突っ走れないことは多々ある。利益を確保することが企業の至上命令だから、プロジェクトの中で、想いが忘れ去られたりすることはある。私自身、職場では、「業務のミッションだからやらなきゃ」と言って遂行してきたプロジェクトが多かった。でも、魂の入っていないプロジェクトでは、与えられた目標を超える大きな成果は生み出せなかった。
 だからこそ、今は思っている。最初は関心が持てないプロジェクトであっても、「仕事だから」と割り切ってしまうのではなく、そこに自分なりの意味づけをして少しだけでもいいから自分の想いを込めることによって、よりいい形で仕事ができると。そのことにより、自分が元気に取り組めるだけでなく、プロジェクトメンバーにも良い刺激を与え、より大きな成果を生み出せるようになるだろう。そうやっていろいろなプロジェクトに心を込めて携わっているうちに、与えられたプロジェクトではなく、自分がかねてから抱いている想いを実現するチャンスも巡ってくるかもしれない。しかもグローバルに!だから、その日に向けて、想いをあきらめずに、「何かを成し遂げたいと想い続ける力」を大事に育みたい。
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