メッセージ
先号   次号

平成22年度事業開始にあたって

理事長 田中 弘 [プロフィール] :4月号

 PMAJ会員の皆様、ご関係の皆さま、いつもPMAJをご支援戴きまして大変有難うございます。
 新年のご挨拶を差し上げてからあっと言う間に3カ月が過ぎました。現下のような厳しい経済状況のなかでPMAJが活動を続けられるのも皆さまのお陰です。
 私は、我が協会を含めて世界のプロジェクトマネジメント協会は、いま存続の価値を問われているのではないかと感じております。経済が構造的に変化していくなかで、これまで築いてきたPM協会の価値をそのまま持続できるという保証はなく、挑戦を続けて時代の要求に応える協会価値を構築し続けて明日があると思っております。
 年が明けてからもPMAJは全開で活動を続けております。東京での新春PMセミナーには昨年の倍である350名のご参加を戴き大盛況でした。2月には(財)海外技術者研究協会からの委託で、フィリピン商工会議所選抜の23名の同国エリートに2週間のP2Mセミナーを実施し、大変好評でした。各講師が得意な分野の講演を行うのではなく、徹底的にP2Mそのものを講義し、議論を重ね、最後にフィリピンの課題の実例を挙げて、これに対してプログラムマネジメントを適用して解を出すということまでやりました。
 引き続き、イノベーション教育のメッカ、北陸先端科学技術大学院大学(石川本校)で、これまでの初級・中級P2M講座に続いて、英語での上級講座を初めて行いました。また、Project Management Institute (PMI®)が開催した、東京での日本の大学向けアカデミックワークショップでは、(社)PMI日本支部、(財)エンジニアリング振興協会と共に共催者となり、大学でのPM高等教育に数十年の歴史を有する北米とフランスの大学5校と日本の大学二十校の間で明日の大学PM教育に向けた情報・意見交換が実現しました。
 このワークショップでは、PMAJと2000年から学術・研究協力協定を有するフランスSKEMA Business Schoolが、来訪大学のトップを切って、同校と30年の歴史(世界最長)を有する大学院PM課程の紹介を行い、スピーカーのChristophe Bredillet副学長から、「PMAJは世界のPMトップスクールであるSKEMAの大事なパートナーであり、わが校でのP2M教育はすでに履修者が500名を超えて、年々充実している」とのコメントがあり、日本の大学の先生方に強い印象を与えたようです。
 3月末には、昨年8月末から(社)日本機械工業連合会(日機連)からの受託し、「組込システム開発プロジェクト研究委員会」が開発中であった、組込システム開発事業におけるP2Mプログラムマネジメントの活用を提案する調査研究報告書が3月末日に完成し、委託元である日機連に提出されました。組込型製造業のGDPにおけるシェアは13.5%と全産業中の2位です。本成果は、この業界が苦しんでいた、組込開発プロセスのマネジメントに新たなメソドロジーを提供していますので、当協会だけではなく、我が国にとっても大きな前進であると思います。(今月号から本成果物に関する委員によるリレー・エッセイがPMAJのオンラインジャーナルに掲載されますので、是非ご一読下さい)。
 また、3月には、経済産業省中小企業庁と政策執行を担当する独立行政法人 中小企業基盤整備機構から受託した、地域イノベーションを支える中小企業の新事業計画作成支援のガイド的資料も作成を終えました。

 P2MもこれまでのP2Mそのもののプロダクトアウト的普及から、分野別アプリケーションを取り揃えての展開ができるようになり、新年度に突入します。
 1月30日の新春PMセミナーでは、基調講演で大阪ガスの松本部長が我が国にとってのオープンイノベーション(複数企業による最先端技術や戦略的経営資源の結集による競争力の高いビジネスモデルの構築)の必要性を熱く語って戴き、ご参加者の圧倒的な支持を得ました。また、4業種から気鋭のパネラーにご登壇願い、新春パネル討議を行いましたが、日本のチャンピオン企業や企業群が、韓国勢に遅れをとり、あるいは入札で負け、中国勢には急激にキャッチアップを許している事態に対する強い懸念が示され、業種を超えてオールジャパン・チームをいくつも編成して、熾烈なグローバル競争に立ち向かうことが必要である、との論調が出ました(詳しくは、近々発刊のPMAJジャーナルの特集Ⅱをごらん下さい)。
 果たして、その後産業界にもようやくオールジャパン的、あるいは他国のパートナー企業を巻き込んでの新事業組成が次々と出てきました。いくつか例を上げますと、
  • 官民挙げての海外原子力発電所建設案件への対応
  • 新幹線輸出プロジェクトでの官民協調
  • 新エネルギー事業での企業間合従連衡(各分野の精鋭企業が事業コンソーシアム結成)
  • 総合エンジニアリング会社とシンガポールの水処理企業による中国での水処理企業設立
  • 総合エンジニアリング会社がサウジアラビアの最先端大学院大学内に日本の有力大学と同大学院間の日サ協力研究メカニズムと日本産業界のマネジメントを教える講座を設ける日サ・リサーチセンターを設立
  • 商社、総合エンジニアリング、水処理のトップ3社による海外水道事業開発・運営企業の創設
  • インドの新都市開発(4都市)における日本企業連合(代表的な例では、総合エンジニアリング企業をプログラムマネジャーとして、総合設計事務所、商社、水処理メーカー、大手IT企業、地方自治体がコンソーシアム結成)
  • スマートグリッドビジネスへの大手IT企業と重電企業の共同事業(あるいはコングロマリット企業内での電力事業部とIT事業の連携)
  • 日産・ルノー・ダイムラー間の事業協力(株持ち合い)による技術開発の促進
  • JBIC・有力都銀・経済産業省の協調によるベトナム無煙炭の長期供給確保
 たった3カ月でこのような進展があったのですから、今後もこのようなオープンイノベーション型の事業は相次ぐでしょう。
 これらの事業を組成するうえでのマネジメントの柱を考えてみますと、それはP2Mプログラムマネジメントに尽きるのではないでしょうか。

 PMAJは、プロジェクトマネジメントの百貨店ですので、伝統的な、計画・資源調達・構築・完成のサイクルを持つプロジェクトのプロジェクトマネジメントを大事にしています(実際世の中のプロジェクトマネジャーの85%以上はこのタイプのプロジェクトの担当です)。
 一方で、上記のような革新的な事業価値を作るプロジェクトの構想の段階から支援できるプログラムマネジメントの体系を提供できるのはPMAJだけですので、こちらに磨きをかけていき、やがて格段と増えると予想されるプログラムマネジメントへのニーズにしっかり対応していきたいと思います。
 私自身の経験を云えば、P2Mと真剣に向き合って4年、ようやく、“P2Mのプロファイリング(P2Mそのものをプロファイルする)”が少しはできるようになったかと思っています。
平成22年4月1日
ページトップに戻る