ダブリンの風(80) 「サロンドエンジニア」
高根 宏士:3月号
SEとは「システムエンジニア」のことと思われている。しかしSEの中でシステムエンジニアは多分5%ほどではないだろうか。それ以外にSEは20種程度あると思われる。最低は「stone engineer」であり、その他いろいろある。
最近あるソフトハウスのPMOに近いスタッフ部門にSEの1種であるサロンドエンジニアを見かけた。彼はよく勉強しており、IT関係の雑誌だけでも、英語も含めて10種類ほどは読んでいた。しかも読んだ結果を直ちに整理し、文書化し、関係者に渡したり、説明したりしていた。誰も彼の知識の豊富さに感心していた。
彼の会社には、現在走っているプロジェクトをフォローする月例の会議があった。そこでうまくいっていないプロジェクトを抱えているライン部門があると、彼はその部門のメンバーに対して毎回滔々と訓示を垂れている。進捗が遅れていたり、成果物の品質が悪かったり、他のステークホルダーからクレームがあったりすると大変である。なぜそのような事態に陥ったかについて当事者の話をあまり聞かず、自分で決めつけた問題定義に基づいて、日頃勉強していることを述べる。
「米国の雑誌にはこのような例が載っていた」
「あの会社ではこんなことをしている」
「最近こんなソフトが出た」等々。
そして最後は
「お前らはこんなことも知らないのか。だから問題が起こるんだ」ということで終わりになる。しかもよく勉強しているのでラインの人間は付け入る隙がない。しかし冷静に観察すると彼の話には現在問題にしているプロジェクトの実態に対応した解決策、または対応策はない。単に現在の世の中の動向を解説しているだけである。そこには彼自身の考えや思い、洞察などは見られない。話していることはすでに活字や図になったものばかりである。ただ周りの人たちは勉強していないのでそれを知らない。「善意(事情を知らない)の第三者」から見るといかにも技術力もあり、話も筋が通っているように見える。
彼は会社の中で技術力もあり、有能であると上司から評価されている。だから現在のポジションにいるのである。
このようなエンジニアがサロンドエンジニアといわれる。関連する話題は豊富であり、プレゼンテーションも上手い。周りの人たちは感心して集まってくる。彼はサロンの花形である。しかし彼には知識はあるが、独自の洞察力や見識はない。一見切れ者、華やかで、機敏に見えるため、世の中でもてはやされることも多い。最近はITの世界だけでなく多くの世界に蔓延している種族である。
有能でかっこよく見える人がサロンドエンジニアかどうかを見分ける簡単な方法がある。それは彼に現実のプロジェクトをプロジェクトマネジャとしてやらせてみることである。
サロンドエンジニアは必ず失敗する。ただし。どうして失敗したかを解説させたら上手い。
サロンドエンジニアはどうでもよい宴会的な場では重宝な人種である。限界を見極めて活用することが肝要であろう。
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