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「システム思考リスクマネジメント手法 (3)」

河合 一夫 [プロフィール] :3月号

 今回は,リスクの特定の際にシステム全体像(プロジェクトの全体像)を捉えたモデルを利用する方法について考えてみたい.前回の図を再掲する.リスク特定では,プロジェクトが解くべき問題を認識し,これを記述することが必要である.何が問題なのか,このことをチームメンバーが共有することがリスク特定の重要な第1歩となる.

 PMBOKでは,プロジェクトの立ち上げ時にステークホルダーのニーズと期待を満足させるプロジェクト憲章を作成する.このプロジェクト憲章こそが,プロジェクトが解くべき問題を定義したものとなる.プロジェクト憲章は,ビジネス・ニーズ,市場の状況や需要,顧客要求,技術,法律,国や業界の標準,組織構造などを入力として作成する.プロジェクトが解くべき問題は,ここにあげたプロジェクト憲章の入力が整理されて定義されたものとなる.

 リスク特定のためのモデルは,この問題を分析し,プロジェクトの構造を示したものとなる.この連載で紹介する手法では,静的なモデルとしてHHM(HIERACHICAL HOLOGRAPHIC MODELING:階層化ホログラフィックモデリング)[1],動的なモデルとしてシステム思考で利用される因果ループ図(先回を参照)[2]を利用する.また,HHMを利用して作成したリスクシナリオ,リスクシナリオの発生頻度と影響度を示すためのリスクマッピングを利用する.その関係を下図に示す.

 理解した問題を,静的な構造,動的な構造で示すとともに,思考を発散させた結果をシナリオとしてまとめ,それを発生頻度と影響度の2次元でマップし収束させたものがシナリオマッピングとなる.以下は,先回も示したシステム思考の基本原則[2]である.
全体像を考える
長期と短期のバランスを取る
動き,複雑性,相互依存性というシステムの3つの性質を理解する
測定可能なデータと測定できないデータの両方を考慮に入れる
私たちはシステムの中でそれぞれの機能を果たしており,私たち自身がシステムの一部であることを理解する.
 ここで示したシステム思考とHHMを利用することで,広い視野を持って全体像を見ることが可能となり,動的なモデルであるシステム思考による因果ループ図を利用することで動き,複雑性,相互依存性を考慮することができる.次回は,具体的な例によるモデルを用いてリスク特定を考えてみたい.

参考資料:
[1] Yacov Y. Haimes,Risk Modeling, Assessment, and Management 3rd, WILEY, 2009
[2] バージニア・アンダーソン,ローレン・ジョンソン,伊藤武志訳,『システム・シンキング』,日本能率協会マネジメントセンター,2001
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