PMプロの知恵コーナー
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プロジェクトマネジャーの知恵 (8)
「「困ったときの知恵」とは何か (4) −サバイバル・マネジメント 2−」

渡辺 貢成:2月号

1. 前回の復習
 10年前に「サバイバル・マネジメント」というエッセイを書いた。日本社会は10年前と現在でどのように変化したか比較するのも面白いと思い取り上げてみた。

2.10年前の日本と現在
 比較してみると面白い。このままだと駄目だと言われてきた「既得権益保護政策の時代」が先の選挙で交代したという出来事があった。これは国民の意識が変わったからである。別な解釈をするとミドルが健全で危機感をするどく感じ始めたといえる。でも、安心はできない。最近の中国、韓国の動きである。日本のお家芸の製造業で、もっとも強かったメモリー、液晶は強い強いと思っているうちに韓国、台湾に抜かれて、80%のシェアが30%以下となってしまった。健全なミドルがいてもこの結果である。日本の家電メーカー9社の2009年7月の営業利益合計額は1519億円である。韓国サムスン1社の同期の営業利益は3260億円である。

 考えてみると80%のシェアをつくりだした10年前のミドルが経営者になっての話である。そして彼らは液晶もメモリーも日本の技術を利用して今日の地位を築いた。
 マスコミで書かれている「ものつくり=技術」という先入観が誤りなのではないか。日本企業が実際にやっていることは国内企業間の値下げ競争である。売上げは高いのに利益が極端に少ない。このままでは2社程度に淘汰されるまで続く。通常ならば残った企業が寡占化の利益を享受できるが、その間にサムスンは更に強力となり、生き残った日本企業は疲弊しきってサムスンに太刀打ちできず、GMと同様になってしまう。サバイバル競争に新たな戦略が求められる。

3.「サバイバル」はやれるところから始めよう
 新聞に書かれた日本の現状をまじめに考えると暗くなっていけない。楽しくない話はこの辺で止める。私たちでもできることに絞りたい。さて、話しを「サバイバル・マネジメント」に戻すが、米軍は兵士に「捕虜となったときの心得とその訓練」をして戦場へ送り出すという。
米軍は常にリスクマネジメントを教えている素晴らしい組織である。「死ぬなよ、生きて帰って来い」とサバイバル訓練をする。「捕虜は国の恥だ、死ね」と命令する日本軍より、米国方式がいい。どうも最近の日本企業は個人犠牲による方式が採用されているようである。ここに至って会社頼みの日本人も、個人のサバイバルを真剣に考える時代となった。
 そこで、まず米軍式のサバイバル・マネジメントの勉強をしよう。
今回も前回同様、コーポレート・クリエイティビティの本からネタを拝借する。
 (1)「捕虜のサバイバル」
 朝鮮戦争の勃発とともに米国空軍はパイロットや乗務員が、猛暑や極寒、水、食料や避難場所の不足、海やジャングルあるいは敵地で撃墜されるといった、欠乏と危険に囲まれた極限状況で生き延びる訓練プログラムの開発をホール・トーランスという心理学者に依頼した。彼は第二次大戦中にサバイバルを体験した何百人もの空軍関係者を調査した。
 第二次大戦時でも米国空軍は空軍関係者にサバイバルのための訓練プログラムをつくりトレーニングを行っていた。それにもかかわらず、生き延びた人たちは多くは、訓練プログラムで教えていなかったことに遭遇し、創造力を発揮した人たちだったという結果を得て驚いた。
 既存の訓練プログラムは敵国が捕虜に対し、どの様な扱いをするか検討し、その様々な扱いに対応すべき幅広い情報を提供することや、捕虜収容所から無事帰還した実例に基き作成したシミュレーション・プログラムであった。したがって捕虜となった軍人はこれらの訓練を受けていたが、現実の環境は必ずしも訓練された状況は再現されず、常に新たな環境に遭遇するというものであった。生存者は訓練で身につけたスキルと人生経験で得られた勘の組み合わせで、状況に合った、全く新しいサバイバルのための手法を各自が編み出して生き延びたことが分かった。トーラスは調査の結果をこのように記している。
 「創造力や発明力とは、すなわち適応力である。その力は、これまで生存や生存のための訓練と結びつけた形では殆ど注目されていなかった。しかし生還したものたちは、独創的で創造性に富んだ行動が目の前の問題を解決しただけでなく、適応しつづけるためのエネルギーを補充していった(これが重要だね!)」。
 考えてみれば現状は以前に比較し、常に新しい状況が出現している。新聞紙上で見る従来どおりの横並びの発想で日本経済がここまでこられたのが不思議と思わなければならない。われわれは日頃評論家のいうことを簡単に信じ込んで、バブル崩壊後、米国が素晴らしくて、日本方式は駄目だと思い込んできたが、本当は評論家が米国には詳しいが、日本の現状を正しく捉えていないのかもしれない。そこで考え方を変えて、日本経済の今日があるのは、本当は横並的発想だけではなく、企業は現状でも、かなりクリエイティブなことをしていると考えることも必要なようだ。われわれは勇気を持って独自のサバイバル・マネジメントを考えようといいたい。
以上
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