PMRクラブコーナー
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プログラム志向による財政再建を期待する

蘆原 哲哉(PMR):2月号

 リーマンショック以降、世界経済は閉塞的状況にある。米国では颯爽とニューリーダーが現れたが、期待が大きかっただけに、理想と現実の違いが失望感に繋がってきているように見受けられる。日本でも世紀の大政権交代が実現したが、その後の新政権の支持率は低下してきている。しかし、90年代後半からの失われた10年を引きずってきた日本では、国民の忍耐力が鍛えられており、成果を性急に求めても無理だと知っているためか、期待と現実の段差はさほど大きくないように感じる。もっとも、その忍耐強い日本国民が前政権に「NO」の答えを付き付けたことは事実であり、新政権としても具体的成果を示さなければ、同様に「NO」を付き付けられる時が来ることを充分認識しておかなければならない。
 政策はまさにプログラムとして策定され、実現されるべきものである。しかし、現政権の政策はマニフェストの内容(個別のプロジェクト)を重視する余り、プログラムの柔軟性が掛けているのではないかと危惧する。そのようなプロジェクトありきのプログラムによって、現在の深刻な経済危機をおいそれと乗り越えられるとは考え難い。価値評価手法として、事業仕分けという方法がとられているが、議員を中心とした仕分けチームの独断と偏見で近視眼的に行われているとしたら残念である。そして、切り捨てられたプロジェクトを全て「無駄」と評価した上で、マニフェストに沿ったプロジェクト(子供手当て等)については、世間の批判にも耳を傾けず、充分な議論もなされないままに、潤沢な予算を付けているように感じられる。事業仕分けの段階では、緊縮財政による財政健全化を目指すものかと察していたが、最終的な年度予算は逆に膨らむ結果となってしまった。
 今の表面的なマニフェスト政治(プロジェクトありきの総花的マルチプロジェクト政治)を続けていくと、期待と失望の繰り返しが続き、結局のところ誰が政治を行っても同じということになりそうである。そうならないためには、政策(ビジョン)をプログラムとしてプロファイリングし、プロジェクトにより構造化したものをマニフェストとして納得いく形で示し、国民がその妥当性を評価できるようなものにしてもらう必要がある。それによって、国民は、結果が出てから「NO」を付き付けるのではなく、マニフェストの段階で「NO」を付き付けることができるようになるものと期待する。例えば、「増税無き財政再建」や「排出削減25%」といった耳障りの良い公約であるが、「言うは易し、行うは難し」である。問題の先延ばしで、「結果が出るころには自らの任期を終えていて、責任もうやむやになっているだろう。」と安易に考えているとは思いたくないが、どうやって実現するのかの説明責任が果されなければ。国民としては意気込みだけを買うという訳にはいかない。
 財政再建の問題を特に危惧している。税収を上回る44兆円もの新規国債発行が来年度の予算に盛り込まれたことは報道されているとおりである。しかし、問題がもっと大きいことについて充分に解説されていない。来年度の新規国債発行により、今年度末で600兆円の国債発行残高が、来年度末には637兆円に膨らむという。単純計算で、来年度の国債償還額はたったの7兆円(600+44−637)でしかないことになる。そんな筈はないだろうと、特別会計を見てみると、74兆円もの国債償還費が計上されている。これは、償還期限がきた国債を借り替えているものと解釈される。現在の国債発行残高600兆円を国民一人当たりに換算すると500万円になる。4人家族であれば一家で2千万円である。もう限度を遥かに超えていると感じるのは私だけだろうか。実質的に国債発行残高の1%程度(7/600)しか毎年償還していないということで、今後新規発行を行わなくても、残高がゼロになるまでに今後90年近くかかるのである。単に財政再建という掛け声に終始している場合なのだろうか。
 増税無き財政再建はもはや不可能と認識する。消費税増税の議論が出る度に与党の支持率が低下するというこれまでの民意が、本当に正しかったのか疑問を持たざるを得ない。しかし、増税すると消費者の消費意欲が減退して、景気が更に後退するという主張も否定できない。そこで、毎年1%ずつ増税して10年で15%にするという案を提案したい。(15%はべらぼうだというかも知れないが、民間消費額が年間300兆円とすると、年間の消費税額は国税と地方税を合計して15兆円でしかない。来年度の新規国債発行額相当を消費税増是のみで賄うとした場合、税率を20%にする必要があるという計算になる。)毎年増税になるとなれば、貯蓄をしていたら現金資産価値が毎年1%ずつ減少するということで、消費意欲は逆に高まるように思われる。貯蓄にマイナス金利ということはありえないが、消費税の毎年1%増税が実質的な貯蓄のマイナス金利の効果を生じるのである。
 JALの経営危機が報道されたかと思うと、瞬く間に破綻してしまった。本当はもっと以前から危うい状態であったにもかかわらず、知らされていなかったものであろう。今、どげんかせんと、日本国政府の破綻という事態に突然晒されるかも知れないと真剣に危惧している。
以上
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