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研究開発と商品開発

本郷 保夫 [プロフィール] :1月号

研究開発とそのミッション:
 「研究開発」を『ウィキペディア(Wikipedia)』で調べると、「基本的な原理や性質を知るための純粋基礎研究、特定の実際的目的のために行われる目的基礎研究、特定の要請に答えるための応用研究、新製品を導入するための研究に分かれる」とあるが、企業における研究開発としては特定の目的のための目的基礎研究、特定の機能を実現するための応用研究、新商品を開発するための研究が殆であり、それぞれを基礎研究、応用研究、商品化研究と呼んでいる。ここでは、「商品開発」と「商品化研究」とを区別して使う。商品開発は商品化研究の成果を使って、新しい商品を作り出す行為と定義する。
 研究開発のミッションは、その成果により、社会や自然環境を豊かなものにして、そこに生活する人を快適にし、幸せにすることであると考える。すべての企業は研究開発により従来よりも良い商品や優れた生産方法を開発し、市場における自社商品の優位性を高めようと努力している。ただ、この企業間の競争が行過ぎて、社会やステークホルダーを豊かにするための競争ではなくなってしまわないようにしなければならない。その意味で、企業間の競争の結果、人が勝者と敗者とに別れたとしても、いつでも敗者が挽回できるようなセーフティネットの制度化が社会的に重要である。
商品開発と商品化研究のプロセス:
 企業のミッションはそれぞれ業種により異なるが、企業はミッションに基づいて、市場調査、商品戦略策定、技術調査、技術戦略策定などを行って、戦略を明確にして、複数の商品企画を作成し、それらの商品企画が企業のミッションを実現するシナリオとなっているかを検証して、開発する商品の企画を決定する。
 その後、商品化研究を行うのであるが、この商品化研究のプロセスは、商品企画の共有、研究開発計画策定、研究開発実行、評価試験、研究開発成果検証、検収の順番で行われると考える。
 研究開発は目的とする成果が必ず得られるという訳ではないので、商品企画の見直しや研究開発計画の中断などが起こりえる。P2Mの考え方から言えば、商品化研究自身がひとつのプログラムであり、いくつものプロジェクトで構成され、そのプログラムのアーキテクチャも時間軸で見直し変更していくことになる。他社が新しい商品を販売し始めたり、顧客ニーズが変化したり、また新しい技術が創出されることで、商品企画の前提となる商品戦略や技術戦略の見直しを余儀なくされることになる。つまり、商品化研究の完了時点で、商品企画が技術戦略どおりに差別化でき、商品戦略どおりに市場における優位性を持つことが確認できれば、その研究成果を活用して、商品化を進めることになる。そして、新しい商品を完成し、発売し、投資回収が商品企画どおりに実行できかを一定の期間、監視する。このように、市場環境の変化、技術環境の変化、ステークホルダーの変化により、商品戦略や技術戦略を随時見直し、商品開発を進めていくことになる。
研究の成果物は知的財産:
 最初に述べたように研究開発は基礎研究、応用研究、商品化研究に分類できるが、商品開発を行う上で、どのような研究分類からスタートするかは解決しようとする技術課題の難易度に依存している。新商品を開発する上で不足している技術(原理、方式、機能、製造方法とか)の難易度が、従来技術の組合せや改良で解決できそうなレベルであれば商品化研究からスタートできるが、従来技術の組合せや改良で解決できない場合は応用研究か、基礎研究からスタートすることになり、難易度が高い場合は基礎研究からスタートする。
 商品化研究の成果は、従来の商品にはない新しい機能や高い性能(高速、小型、軽量、省エネ、高効率、高信頼など)を実現する具体的な手段であり、成果物としては製作図面(システム構成図、回路図、機械設計図、ソフトウエア製作図など)や性能計算書(シミュレーション結果など)や評価試験データなどである。応用研究の成果は、従来技術で実現できない新しい機能や高い性能を実現する方式であり、成果物は試作図面(方式検討書、実現可能性評価のための最小限の試作図面)や部分的な試作物と評価試験データなどである。基礎研究の成果は、従来原理や従来方式では実現できない機能を実現する原理・方式であり、その成果物は検討書(原理検討、方式検討など)や原理試作図面や実験データなどである。
 商品化研究の成果物は、商品を作る上で必要な製作図面にそのまま成る訳ではなく、商品のデザインや商品の仕様などにより変更して利用される。応用研究や基礎研究の成果物である原理や方式は、そのままでは商品開発に利用できないので、商品化研究で商品開発に利用できるような具体的な手段を創り出す。ここで、基礎研究、応用研究、商品化研究で生まれた従来存在しない新しい技術や新しい方法は特許として登録することで知的財産として保護され、権利化された知的財産を使っている商品は特許で保護されることになる。
さいごに:
  「身近な話題をP2Mの視点で語る」ということで芦原さんに執筆を依頼され、私にとって身近な話題はと考えてみたら、普段の業務である「研究開発」のことが浮かび、稚拙ながら日ごろ考えていることをまとめてみました。P2Mの視点で思考しているか、はなはだ疑問ではありますが、ひとりでも多くの方に読んで頂き、何かの参考になればと祈りつつ、筆を置きます。
以上
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