PMP試験部会
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「官に於けるプロジェクトマネジメント」
(その2:単年度調達に関する問題)

イデオ・アクト株式会社 代表取締役  葉山 博昭:1月号

 官公庁に於ける調達は基本的には入札制度にて基づいて行われている。システム開発プロジェクトにおいても、過去入札制度によらず随意契約により特定の企業による独占となり不当に高額な調達が行われていたこともあり現在では入札制により外面上は公平性が確保されるようになっている。このこと自体は一部の元請け企業との癒着が少なくなり、公平性という観点では好ましいことである。
1. 単年度毎の入札の問題点
 大型開発案件の一部以外では基本的には入札は年度単位であり、年度を超えた継続的受注が行われないことになる。初期開発が終了したシステムであっても、開発終了後毎年改造が発生することが通常であるが、現在の単年度入札では毎年開発業者が変わることが頻発している。またシステムの改造を伴わない保守業務も毎年入札の対象となり、毎年保守業者が変わることも発生する。初期システム開発は前号の業務・システム化最適化指針に基づいて行われ、設計書は納品されているが、この設計書は初期開発時に必要なものとして作成されたものであり、改造、保守でメンテナンスするには極めて負担の高い量と質となっている。システム開発では設計書は初期開発では顧客との合意に基づき作成され、その後メンテナンスされているのが通常である。設計書が正確にメンテナンスされていても、初期開発後のプログラムを改造する場合は、その時点で稼働しているソースプログラム、インフラ系の実際の設定値等を理解し手を加えなければならない。その理由は、情報システムでは設計書とプログラムのソースコードが常に一致しているかというと、正確に同期しているとは限らないことが多いからである。初期開発期間中でも、工程が進むに従い、製造、テスト工程で発生する微妙な変更であった場合、終了した工程の設計書を変更する必要のある場合変更するのが基本的なルールだが、システム開発で時間に追われて開発していることが多く、遡った変更が出来ないことが多い。(このようなことはシステム開発だけではなく、建築においても同様で、築後が何らかの事情で建築設備を変更する場合に納品された設計書が現実のものと違っていることはまま発生する。とくに建築本体と設備関係の接点などに多く発生する。)2工程前、プログラミング中に変更が見つかって前々工程の基本設計のドキュメントを変更しなくとも当面の作業では前々工程の設計書は見る必要性が無いからである。本来は製造工程中に見つかった変更は既に作成されている設計書全てに対して影響があるか調査をするのが教科書的には正しいのだが、実際に行われることは少ない。製造工程以降では必ずテスト工程が後続作業にあるのでドキュメントを更新しなくとも種々のテストで発見されることが多いことを技術者が経験則で知っていることも、初期開発の期間中に使用されることの無い設計書のリバイスを甘くしてしまっている。厳格に本来あるべき作業を行うほど予算的、スケジュール的に余裕がないことの方が原因としては大きい。最終製品のソースコードの変更が時には基本設計書、要件定義書まで遡ることもあるが、ソースコード、インフラ系の設定値を対比し評価出来る技術者が少ないことも原因の一つでもあるし、また変更が合った場合作業を進めることに関する問題解決を指揮するプロジェクトマネジャーは多いが、ソースコード、設定値等と設計書対応する作業を指示出来るプロジェクトマネジャーは極めて少ないことも原因の一つである。近年ではプログラムと同様にネットワーク、サーバー、DB等のインフラに関する設定も重要な成果物であり、改造・保守での作業の重要な点であり、インフラ系の設計書に関する開発中の変更に関するリバイスはプログラム関係のリバイスよりも難しい。最近発生する大型の社会的影響のあるトラブルはこのインフラ系の設定を変更することが原因であることが多い。
 単年度入札により、初期開発に携わらなかった開発業者が、母体のシステムが大きく改造度が小さい改造を行うような場合、与えられる予算は小さく期間は短いのが常である。このような場合は特にソースコードと基本設計書を一致させることは難しい。単年度入札で初期開発に参加していなかったシ開発業者がシステムに改造を加える場合、本来母体のシステム全体を正確に理解してから改造を行わなければならないが、単年度の小規模な改造の予算で大きな母体のシステムの全貌を正確に把握して作業を行うことは難しいが、良心的開発業者は予算をオーバーしても全容を正確に理解し改造を行うこともあるが、採算重視で外面的に分かる範囲の改造を行うことしまうことも多い。システムの全貌を理解しないまま改造し、目に見えない所で徐々にシステムが蝕まれ本来の機能を果たさなくなっているシステムは、官公庁のシステムではかなりの数になると予想される。
 このような問題を避けるには、改造・保守を行う開発業者にシステムの把握という初期投資に見合うよう複数年度契約を行えるようにすべきである。システム開発の事例でも改造・保守の例でもないが、単年度契約の悪しき最近の事例では、自衛隊のヘリコプターの製造を単年度契約で行い、当初予定数を製造しないままある年度で打ち切られ、製造事業者が支払ってしまったラインセンス料の初期投資分を回収出来る見込みがなくなり発注元の官庁を告訴するようなことも発生している。
 システム開発では改造・運用保守で満足な品質を確保するには、最低でも初期投資を回収出来る5、6年の継続的契約が必要と思われる。毎年初期投資無しの価格で入札を繰り返し異なる開発業者がシステムに手を加えていては、品質は悪くなる一方である。入札制度自体は業者との癒着を防ぐ意味で存在すべきだが、システム開発では最低5、6年契約毎に入札で価格競争し開発業者を選定することが望ましい。
以上
次回は「官に於けるプロジェクトマネジメント」(その3:工程単位の分割調達に関する問題)
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