PMP試験部会
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「官に於けるプロジェクトマネジメント」
(その3:調達に関する分割開発の問題)

イデオ・アクト株式会社 代表取締役  葉山 博昭:2月号

大規模システムでの分割調達に関する問題
 前回は官公庁システムの会計年度単位の発注の問題を取り上げたが、今回は業務・システム化最適化指針に基づいてシステム開発が行われるようになって、従来からの設計工程から製造、テストまでの一括発注から工程で実施業者を分割して調達が可能になり、また工程を管理する事業者も開発実施事業者と区分出来るようになったことによる問題を取り上げる。
 国の大規模システム開発では設計・テスト工程(基本設計・詳細設計・テスト)と製造工程を分離し、官庁に代わり工程を管理する業者を分離することになっている。この制度はSI業者が受託しても実際の製造工程は下請けに丸投げで、元請けが実務を行っていない反省から、製造を元請けから分離し、中小開発業者が直接受託出来るようにしたもので産業の実態を踏まえた良いもののように見える。
 SI業者の下請け依存の体質を捉えていている面は評価出来るが、設計工程と製造工程を別の事業者が行えるという前提は、システム開発の実務を理解していない発想としか思えない。システム開発では圧倒的に要件定義、基本設計の責任が重く、又製造工程の知識がなしで基本設計は成り立たない。なぜならば製造工程の知識がなくては、製造出来るかどうか判断出来ず、フィージビリティのない基本設計書に遭遇することはままある。実現出来ない基本設計に遭遇したことは一度や二度ではなかった。システム開発では、製造以降も基本設計に立ち戻る変更・見直しは日常的に発生し、基本設計を行った事業者でないと円滑な対応をすることが難しいことが多い。また製造工程と設計工程を別事業者にすると、製造工程で発生した基本設計のミスを事業者間でどのように分担するのか、どのように費用負担するのかという、もめごとの元になる。本来システム開発では基本設計を行った事業者が以降の工程の責任を持つべきであり、責任をとることが出来ないような範囲での工程の分割発注は、物作りの責任の取り方という根本的な問題から見て極めて不都合なものである。
 だがシステム開発業界にも問題があり大規模システムを受託するようなメーカー系、SI業者系は製造工程どころか信じられないかも知れないが基本設計、要件定義も出来ない企業も多く存在し、なぜこのように設計が出来ない事業者が元請け企業となってしまったのかというと、下請けへの丸投げ方式をこの20年、30年間続けてきたことが原因であり、その咎めが今になって出てきたもので、解決策は産業全体で考えるべき大きな課題である。
 工程による分割発注であるより、機能により細分化し全工程を同一開発業者に委託するほうがより良好な品質のシステムを自己の責任で行うことが出来、その結果、優良な開発事業者を育成することにも繋がることになる。機能を分割して発注する場合機能間のインターフェースは発注者側の官庁側が担うことになるが、現在のように2、3年で担当者が変わり、何でも丸投げの官庁の体質では、機能を分割して発注する責任を負うことは出来ない。官庁側には官公庁自身のシステム開発を理解出来る技官がおらず、勢い開発業者へ丸投げとなってしまっている。官公庁は発注仕様書を自ら作成し、機能を分割して発注し、検収出来る専門官を養成しないと民間の大規模なシステム開発のような機能単位の分割発注は出来ない。

工程管理業者の問題
 大規模な官公庁のシステム開発では、開発業者とは別にプロジェクトの進捗管理を官公庁に代わり行う工程管理業者が存在する。工程管理業者はシステム完成責任の一端を担う立前になっているが、同一のシステムでは、設計、製造を行う業者は、工程管理業者に応札することは出来ないため、システム開発経験の無いコンサル系の企業が担当することが多い。工程管理業者は些細なミスを咎めたり、開発業者の上げ足を取るような事ばかりしている現状では、官公庁側にも開発業者側にも役に立たず、プロジェクトの進行に邪魔な存在としか見えない。前述のように機能分割する責任を官庁に変わり行い、発注漏れが無いように責任を持ち、機能間の界面を調整して初めて工程管理業者としての価値が発揮出来る。またその位の責任を負うべき対価を得ている。工程管理業者はシステム開発全般の実務に通じていることが必要であり、そうでなければプロジェクトのステークホルダーとは言えない。

CIO補佐官の問題
 また各省庁、独立行政法人にはCIO補佐官という民間出身者が存在している。システム開発のプロジェクトから1、2ヶ月遅れのEVMの報告を受け後手にまわり、その書式等にクレームをつけたり、システム開発のトラブル防止、問題解決に役に立っているとは思えない。又システム化ばかりに目がいってしまい、業務の改善は官僚任せで投資効果のあるシステム化を行っているようにも見えない。例えば業務自体を変ずただ従来の業務を電子化した電子申請のシステム開発を進めたりしているが、その利用率の低さは国会でも問題になっていることなどがその一例である。又今や民間ではあまり使っていないOCRに固執していることを容認したり、単なる組織内のOA化の支援を行うに止まっていることも多い。官公庁のシステム化のコントロールに関与させて貰っているのかどうかはなはだ疑問な存在となってしまっている。官の壁を突き崩せていない。CIO補佐官は本来民間出身者を公募している。その理由は民間でのノウハウの適用であり、省庁内でも指導力が発揮出来る組織上高い地位にある。だがまた能力的にその能力が疑われる人材も存在し、有効に機能するよう制度、人材を見直すか、廃止するか、その存在理由を改めて見なす必要性を感じる。
 3回に渡り官公庁のシステム開発の問題を指摘してきたが、この不況時に前年以上の水準で発注がなされ公共事業のようになっている、情報システムは事業仕分けにも引っかからないほど聖域化しており、抜本的な見直しをすればより少ない費用でより効果の高いシステム化が出来ると、現在も某官公庁のシステム化のプロジェクトマネジャーを行っており、現実の官公庁のシステム化に携わった経験を通して信ずるに至った。
以上
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