図書紹介
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「運命の人」(第1巻〜第4巻)
(山崎豊子著、文藝春秋社、@2009年5月20日発行、2刷、251ページ、A6月25日、3刷、255ページ、B5月30日、1刷、268ページ、C6月30日、1刷、282ページ、各巻1,524円+税)

デニマルさん:1月号

昨年、著者の作品が脚光を浴び、「沈まぬ太陽」が映画化され、「不毛地帯」のテレビ放映等、書店に本が山積みされた。著者の作品は、綿密な取材から主人公の生き様とその人間性を、その生き抜いた組織や社会的背景から問題を浮き彫りにしている。小説ではあるが、ドキュメンタリーなノンフィクション部分が窺える。今回の本は、沖縄返還の日米交渉の過程で「極秘文書」のスクープ記事を発表し、それが機密漏洩事件に発展して、国から提訴されて有罪判決となったストーリが書かれてある。この事件は、現実でも控訴中で、本書の内容と裁判での争点が重複して見えてくる。そしてこれも昨年末だが、沖縄返還密約の新聞記事(12月2日、朝日新聞)が発表された。その新聞に小説のモデルと言われる人の談話が掲載されている点も話題性があった。現実とフィクションが錯綜した小説である。

運命の人とは   ―― M新聞社の政治部記者だった ――
主人公は、全国版M新聞社の政治部記者であった。新聞記者は、自分の取材した事実を新聞記事として公表する。だからその社会的責任は大きい。一方新聞記者は、スクープと称する取材競争をしている。その記事反響が大きければ、それだけスター記者にもなれる。運命の人は、M社のスター記者であったが、先の事件で裁判となり、敗訴して新聞社を追われた。だが主人公は、記事の真相を求め、判決後も真実を訴え続ける運命をたどっていた。

運命の出来事  ―― 沖縄返還に係る日米交渉機密漏洩の裁判 ――
この運命の出来事とは、1972年の沖縄返還に係る日米の外交交渉で、密約があったとスクープ記事にしたことに始まる。この問題は国会でも論議され、最終的に密約はなっかたとする政府答弁で決着がついた。しかし、この密約記事の情報出所が問題となり、国家機密の漏洩事件に発展して裁判沙汰となった。先のスクープ記事の入手経路が明らかにされ、外務省の事務官と新聞記者が男女の関係から情報が漏洩されたとして有罪判決となった。

運命の人の現在  ―― 沖縄返還の日米密約は真実であった ――
この本では、主人公を含む新聞社側の情報源の守秘義務と密約を否定する外務省側、双方の当事者の家族を含む動きが克明に描かれている。更に、この問題が政治の場で争われ、事態が一層複雑に絡まった事件となった。結局、最高裁で敗訴となるのが小説での話である。現実は、情報公開の控訴中の裁判で元外務省高官が「機密文書はあった」と証言した。その結果「密約スクープ」は事実証明され、運命の人は現実の世界で真実に遭遇している。

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