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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜多様な人材をマネージすることができる力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :12月号

 今日中に終わらせる必要が無い仕事を今日中に終えるために、残業をする人がいる。一方で、その仕事は明日にすることにして、今日帰る人がいる。また、黙々と仕事をするのが好きな人がいる一方で、グループでわいわいやりながら仕事を進めていくのが好きな人がいる。どちらがいいとか悪いとか言うのではない。組織における部署の中であれ、プロジェクトであれ、携わるメンバーには、様々な考え方や価値観の人がいる。そういう人たち、言い換えると「人的資源」を組織のヘッドとして、あるいは、プロジェクトリーダーとして、どう上手くマネージしていくのか、は重要な課題だ。
 P2Mのテキストの「第6章 プロジェクト資源マネジメント」は、プロジェクトの資源として、人的資源、物的資源、金融資源、情報資源、知的資源、基盤資源の6つをあげている。それぞれ奥が深いが、私自身は、人的資源が一番チャレンジングだと感じている。人的資源をどう扱ったらいいか、には正解が無い。「このルールに従っていれば大丈夫!」というのがあれば、管理職としてそんなに嬉しいことはないが、残念ながらそんな万能薬というのは、こと、人の領域に関しては無い。人は日々成長し、考えも変わっているから、昨日あるメンバーに対して上手くいった方法が、今日も有効であるとは限らない。相手に言葉を投げかけ、かえってきた言葉をもとに、相手の気持ちを推し量り接する。日々、その連続だ。
 「第4章 プロジェクト組織マネジメント」は、人的資源に関連して次のように説明している。「プロジェクトは、最終的にはヒト(個人)の貢献の集積によって価値創造が営まれる。そのため、プロジェクト組織に参加する個人の達成感、使命感、満足度が、プロジェクトの効率的な運営と成功に大きく影響する。」プロジェクトリーダーの大事な役割のひとつに、メンバーの達成感、使命感、満足度をいかに高めていくか、があると言える。一人一人、達成感、使命感、満足度を得る源が違うから、一人ひとりときちんと向き合うことが必要になる。ダイバーシティ時代には、達成感、使命感、満足度の源が個々人のバックグラウンドにより、多様になるため、ますます心して対応しなければならない。
 数ヶ月前の日本経済新聞に、スウェーデンに本社があるイケアジャパンの社長が、ワークライフバランスについてコメントをしていた。社員がワークライフバランスを保てるよう、日本のオフィスでも、ノー残業を徹底しているという。私も仕事をする上で、ワークライフバランスには憧れるが、なかなか、ノー残業というわけにはいかない。私がリーダーとしてマネージするプロジェクトに、仮に、ワークライフバランスを非常に重視するスウェーデン人がメンバーとして加わった際に、私はどうその人に接したらいいのだろうか。その人の考えを尊重した場合、残業をしている他のメンバーにも、彼なり彼女なりの価値観をどうやって理解して納得してもらったらいいのだろうか。
 同じ日本人同士でさえ、一人ひとりを動機付けるのが難しいのに、仕事に対する意識が異なるメンバーが入った時に、その人を、そしてチーム全体をどうやって動機付けたらいいのか。暮らす環境が違えば、考え方が大きく違うことがある。文具大手ぺんてるがインドの合弁企業に対し、製造3年後でもきちんと書ける「日本基準」を持ち出したところ、合弁相手は、「この国では誰も3年先を気にしない」と一笑したという。(11月18日付け日本経済新聞「企業 強さの条件というシリーズの序章で『多極世界に挑む 1』」)時間に対する捉え方が、全然違う。
 これほどまでに多様な人的資源をどうやれば、上手くマネージできるのだろうか。そのひとつの解は、「対話=ダイアローグ」かもしれない。最近よく話題になっているので、皆さんも耳にしたことがあるかもしれない。最近、職場の同僚たちとディスカッションをする中で、その可能性を私自身感じることができた。「職場で何を実現したいのか。どういう時に達成感を感じるか。どんな行動基準を持って仕事をしたいのか」、皆で話しをする中で、「この人、こんな想いで仕事をしていたんだ」、「結構皆チャレンジングなことが好きなんだ」、多くの発見があった。普段一緒に仕事をしていてもわからない皆の気持ちに、少しだけでも触れることができたのは、新鮮だった。バックグラウンドが大きく違えば、共感をすることは難しいかもしれないけれど、対話をすることにより、少なくとも、相手の考えを知ることはできる。そんな感触は得ることができた。
 皆さんも、多様な人的資源をマネージする力を磨く第1歩として、まわりの人との対話をしてみることをトライしてみたらどうだろうか。
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