PMプロの知恵コーナー
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プロジェクトマネジャーの知恵 (4)
「変わるものと、変わらないものの判別が知恵」

渡辺 貢成:10月号

1. 前回までの整理
1) 第1回目:出だしを考えて「トラブル発生時のプロマネの知恵の発揮の仕方」から入った。
2) 第二回目はオーソドックスに「知恵の定義」をした。知恵には「智慧」と「知恵」があり、智慧は宇宙の原理原則で、知恵は人間の持つ経験的な蓄積の中で価値があると認められた直感的・総合的なもので、知識を活用し、状況判断を含む問題解決を行いうる総合能力とした。
3) 第三回目は正しい知恵の活用として「変わるもの」と「変わらないもの」の識別の大切さを説明した。この原理はPM(プロジェクトマネジメント)においても同様である説明をした。事例としてIT業界の失敗事例を取り上げた。IT業界は変化が速い。業者は変化の速さを強調し、これをユーザーに押し付ける。しかし、人間の行動、心情が付いていかないと、変化の速さを強調しても、混乱を起こすことになる。混乱を避けるために、人々の心情を優先し、IT化を心情に合わせると、IT投資の効果が発揮できない。これがIT導入業務の第一の問題点であり、更に大きい問題点は、PMの基本であるプロジェクトライフサイクルというPMを実施する際の基本的手法を無視し、構想計画を実施しないで、業務を進めることで失敗を繰り返している。幸い、経済産業省もその問題に気がつき、2006年には超上流の構想を創るところからスタートすることを指示し、2008年にはIT経営ロードマップを発表し、@業務の見える化で、業務改革を進め、情報の見える化でIT化を進めること、AIT化の共有化で、部門の壁を乗り越えた情報化の達成、BITの柔軟化で、企業間の壁を乗り越えることための手順を示した。

2.「変わるもの」と「変わらないもの」
2.1 「変わるもの」とは何か
 社会は常に変化しているが、人々は何が変わっているか日々観察しているから、説明の必要がない。では、「変わらないものとは何か」を説明せよといわれると答えるのが難しい。しかし、多くの人々は「変わらないものがある」ことも信じている。

 ここでジョークを一つ入れる。先日大学院の生徒に4日間のP2Mの講義をした。「変わらないもの」は「ある種の人間の生き方で、中国4千年の歴史を読むとその事がわかる」と話をした。中国の留学生からコメントが出された。「なぜ、先生は中国4千年の歴史というのですか、私たちは5千年の歴史と言っています」。私の主張には賛成だが、私たちの歴史は5千年以前で、世界で一番旧いといわれた。家に帰り調べてみると人類誕生は500万年も前である。1万年前には数々の石器が発見されている。文字の発明が5千年以前だから、有史とは5千年といえるかもしれない。中国は国民に世界一早く文明を発達させた国と教え込んでいることがわかった。

 さて、また「変わらないものとは何か」に戻る。人間は一人で生きているのではない。人間関係を大切にすること、家族の絆を大切にすることの重要さは変わっていないといえる。しかし、注意して観察すると、人間関係、家族関係の基本的は変わらないが、時代とともに表面的には変わってきている。これを変わると解釈するか、根本は変わらないと解釈するかは個人の見方である。そこで世の中すべて変わるよと解釈すると、その変わり方に焦点を絞ると何かが見えてくるかもしれない。

2.2 変わり方の法則
1) ヘーゲルの弁証法的展開
 この文章はエッセイであるから、要点を簡単に述べるにとどめる。社会は時代とともに右肩上がりに発展している。しかし、権力者の権力による既得権維持と庶民の現状を維持したいという欲求があって、思ったほどには直線的に進まない。 しかし、この状況が長年続くと、溜まった鬱積が大きなエネルギーとなり、革命的に変革する。これがヘーゲルの弁証法的展開である。
2) 米国プラグマティズムのスパイラル的展開
米国はプラグマティズムを信奉し、資本主義が発展してきた。社会はスパイラル的の上に向かって、その輪は次第に大きくなりながら発展する、というものである。
3) 田坂広志氏のスパイラル型弁証法的発展
田坂理論は「社会はスパイラル的に発展するが、スパイラルの線上でスムーズな上昇を示すのではなく、弁証法的に展開していく」と説明している。

次回は田坂理論を進める。

以上
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