PMプロの知恵コーナー
先号   次号

プロジェクトマネジャーの知恵 (3)
「プロマネの知恵とは何か」−知恵の正しい活用−

渡辺 貢成:9月号

1. 正しい智慧の活用
 前回は知恵には2種類がある話をした。智慧と知恵である。前者は宇宙根源の持つ真理で、後者は人間の持つ経験的な蓄積の中で価値があると認められた直感的・総合的なもので、知識を活用し、状況判断を含む問題解決を行いうる総合能力と説明した。

プロマネは学者とちがい、人間くさい職業である。宇宙の根本原理よりか状況判断を含む問題解決が向いていると思われがちである。この考え方は半分正しくて、半分正しくない。

現在のプロジェクトは近視的なものから中長期的なものまで含まれている。近視的に見れば、目先の問題解決が一番求められていると思われがちであるが、プロマネが最も求めているものは本質的なものである。表面的なものを頼りにすることはできないからである。

例えばIT産業の人々とお付き合いすると、私たちのプロジェクトは2つの意味で難しい。
第一が見えないものを取り扱っている。第二がドッグイヤーで進歩し続けている。これは大変難しい仕事といえる。確かにプラント系に比べると多くの困難さがある。では、難しい仕事をするならば、その難しさをどのように克服するかを考えるのがプロマネの知恵である。

難しいプロジェクトの典型は宇宙開発である。宇宙開発は失敗すると何千億円の費用が一瞬にして霧散する。そのため彼らは綿密な構想計画を実施する。構想計画完了後、NASAは業者と契約するが、NASAは業者に自己の要求仕様を徹底的にチェックさせ、問題点をすべてつぶしてから設計に入る。ここではNASAと業者は甲乙の関係でなく、ともに宇宙開発を成功させるための協力者という関係を創りあげている。

宇宙開発も新しい技術を取り入れながらプロジェクトを進めているが、最新技術は必ず吟味して採用している。

プロジェクトマネジャーの発想はまず、変わらないものと、変わるものとを識別する。そして変わらないものを基本としてプロジェクトを進める。

1.PMにおいて変わらないものは何か。
 プロジェクトの進め方は当初から変わっていない。構想計画から始める考え方である。
 ・プロジェクトはプロジェクトライフサイクルに従って、構想計画を徹底して行う。構想計画の中で変わらないものと、変わるものを識別し、変わるものがどのように変わるか予めシミュレーションする。世の中のことは変わるといっても一時に20%も変わることはない。80%の変わらないものをベースとして、その上で変化を吸収する発想が理に適っている。

 プロマネの知恵で言うならば、「プロジェクトは基本を守ることから出発しよう」である。

2.ITがドッグイヤーで変化しているが、企業のIT化がドッグイヤーで変わったか?
  経済産業省と日本情報システム・ユーザー協会によるIT経営ロードマップによるとIT投資本来の効果を享受するためには、目的なく、単に現業をIT化するだけでは、不十分であり、自社のビジネスモデルを再確認したうえで、経営の視点を得ながら、現業とITの橋渡しを行っていくことが重要である。
  このような経営・現業・ITの融合による企業価値の最大化を目指すことを「IT経営」と定義する、といっている。

 これをわかりやすく言い換えると、ドッグイヤーで進んでいるソフトやIT機器類を売り手のアメリカで出羽守という(アメリカ では 皆さんが採用して成功していますという)口車に乗って、単にソリューション・ソフトを採用しても効果は出ないよと、実質的に効果が現れていないIT化が多いことを示唆している。

 この問題をプロマネの知恵で解釈すると、IT化の本当の難しさは、モット深いところにあり、ソフトやハードの変化のスピードだけではなく、ITを使う現業の人々が、慣れ親しんだ自己の業務のやり方を変えるに際し、現業の重要性を十分な検討をせずに、変更させ、その後の混乱を現場に押し付けることへの抵抗があることである。ITのスピードの速さと現業の変化に対するスピードの遅さの落差を埋める対策(誰もが納得する「見える対策化」に問題があることを理解することがプロマネの知恵である。

3.ITは見えないから難しいのか。
  プロマネから見たら、ITはシステム化することで見える化が果せる。何故なら、コンピュータは「見える化」しないと受け付けてくれないからである。ITプロジェクトで見える化が、難しいのは既存システムが整理されていないからである。従ってこれらの難しさを解消することがプロマネの最初に仕事である。このためには構想計画を発注者、受注者で協力して、問題点の見える化を行い、作業量の把握を、発注者、受注者間でまとめ、契約することである。多くのITプロジェクトはこれらの基本を実行していないと思われる。IT経営ロードマップを読むとそのことがよくわかる。

4.サービスはタダという習慣は正しいか
  日本社会ではサービスしますということはタダでして上げますよという意味である。欧米ではサービスがマネーそのもので、評価されている。欧米では一つの要求は受注者にとって当然出費となっている。タダであるはずはない。日本の顧客はこのタダでやらせるサービスを多く要求する。若し、金を払うなら要求しないよという要求が多い。これは設備投資で言えば発注者の要求は、単に受注者の負担増に止まらず、発注者の「システムの運営費が高くなる」という発想を持っていない。発想に経済性という観点が抜けている。

 プロマネが本質を真に理解し、行動するのはこれらの真実を自ら守らないと、決して満足のいくプロジェクトが実行できないからである。

 プロマネは基本に忠実であることで正しく、確実に、しかも楽に仕事ができることを認識していなければならない。
ページトップに戻る