PMプロの知恵コーナー
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プロマネの表業、裏業 (19)
「発注者のプロマネの立場として「軸のぶれないプロマネ」のあり方」

芝 安曇:10月号

 プロマネの表業、裏業のプロマネは基本的に受注者としてのプロマネとしての業である。しかし、これが発注者としての立場となると、内容ががらりと変わる。今回は発注者のプロマネとして「軸のぶれないプロマネを演じることにする。ここでも軸とはプロジェクトの使命・目的・目標に向かって確固たる態度を持って望む「精神の軸」、「発想の軸」を意味することに変わりがない。しかし、発注者のプロマネの立場は、受注者のプロマネよりよりシビヤーである。ただし、海外のプロマネの立場である。

1. 発注者としての海外のプロマネと国内のプロマネの相違点
1.1 契約書と仕様書
 ビジネスは契約により始まる。契約をしない業務は支払いをされなくともクレームをつけることはできない。
 日本では、お客さまが至急にやってくれという要求がある。契約書が間に合わないが、間違いなくやるからスタートしてくれと頼まれ、長年のお付き合いだからと、これを引き受けてしまう。一方長年付き合いのある米国の会社にお願いして、契約書なしには決してビジネスをスタートしてくれない。長年の付き合いに関係なしに、契約書なしではスタートしないのは、ビジネスの常識で、プロマネは決してこの要求を呑まない。万一のときの責任をとる理由がないからである。

 では日本のプロマネだったらどのような行動に出るだろうか。簡単に受けてしまうに相違ない。損をしてでも顧客に逆らうことをしない習慣ができている。また、このときの損を会社はプロマネの責任にしない習慣もあるからだろう。

 ではこの習慣は好ましいものか考えてみよう。簡単なことだ。契約書が書けないということは仕様が決まっていないことを意味する。仕様が決まっていなければ、何時取りやめになるかわからない。考えてみれば無意味な協力である。なぜ、無意味かというと、このような発注者のプロマネは素人で、実力のない人物だからである。実力のある人は、自分が検討の済んでいないことの要求はしないものである。では、実力のないプロマネの要求を受け入れると、どのような結果になるか、考えなくても答えは出ている。中止か、仕切りなおしかである。その案が社内で承認されたとしても、納期が少ない、予算が足りない等、まともにプロジェクトを完成させることができないと考えていい。

 この状態を国内の人は不思議に思わないかもしれないが、この状況で海外のベンダーに要求したら物笑いの種になる。世界的に通用しているビジネスに無知なことを知られ、多くの追加を要求される。日本の発注者にはプロとしての厳しさとプライドがない。

 プラント系の発注者のプロマネは、プラントというその会社の浮沈に関わる大きな金額の投資を扱うため、準備が万全である。予算や納期に関し、無理な要求をしない。無理な要求は自分に戻ってくることを理解している。そして運転にどのような影響を与えるか熟知している。このプロマネが発注するプラントを受注者として請け負った場合、受注者のプロマネは幸せである。彼から多くのことを学ぶことができる。私自身で言えば、シェル石油のプロジェクトで多くのことを学んだ。

 シェルというメジャーオイルはナレッジマネジメントという点で優れている。過去の経験のすべてを組織が整理し、全員が使える形で蓄積されている。私たちの提案はその日のうちに100の製油所に連絡され、提案された問題に関し、製油所でトラブルが発生した事例がないか、翌日には返事が返ってくる。
 日本の製油所からこのように見事な答えが返ってはこない。ナレッジマネジメントという発想が希薄だからである。

 シェルの社員は皆定時で帰り、その後の生活をエンジョイしている。企業の体制が、定時で終了できる仕組みをつくっているからである。それはプロマネ以前に会社自身が「軸のぶれない価値観」の下に、日々の努力を積み重ねることによって、アフターファイブの生活をエンジョイできるシステムを構築していることを実感した。

 次回は国内ITプロジェクトについて検討してみる。
以上
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