PMプロの知恵コーナー
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プロマネの表業、裏業 (20) 「残業しない組織とは何か」

芝 安曇:11月号

 前回はプロマネの表業、裏業のプロマネは海外の発注者の「軸のぶれないプロマネ」の話をした。特に契約書、仕様書について日本と海外の相違を話した。そして欧米ではなぜ残業なしで仕事が出来るのかを説明した。よその国の話をうらやましく思っても意味ないが、なぜ、それが可能かという理由を知るのは悪くない。日本でもどこかの自治体でNO残業を宣言したかいうこともあるのでその気になれば出来る話である。

1. 残業をしない組織とは何か
「企業は人なり」という言葉を聞いて日本人は誰も違和感をもたない。「企業は組織なり」と聞くと違和感がある。残業問題もこの違和感と関連する。
「この不況で会社の業績の悪化している時、辞めるのは社長としての責任を果すことにならない、継続して業績を快復させたい」という社長の宣言を新聞で見かける。次に社長が取った対策は社員のリストラである。これは長年の習慣で日本人にとって違和感がない。では米国ならどうするか、考えたことがあるだろうか
「従業員は会社の業績に関与していないから、責任は取る必要がない。会社の業績の悪化は経営者の責任である」というのが米国流の発想である。言われてみれば日本人も納得する。日本でも「業績を出さない監督は契約期限内でも首になることがある、しかし、業績悪化で選手が首になった話は聞かない」これに日本人といえども違和感がない。

この話の結末は「企業は組織なり」という欧米の考え方に軍配が上がるということをいいたかった。
2. 企業は組織なりの欧米
 企業が大規模化すると組織を階層化して対応する。この階層組織は100年以上も前から定着している。組織が定着すると組織のルールが明確に定められ、組織の責務・能力に見合った人材が組織に採用される。「適所に適材が採用される」。最初にポストがあって、そこに適材が採用される。ここで言う適材とはプロとして通用できる人材を言う。欧米では人材育成は基本的に自前で、自己を教育をすることになっている。言葉を変えると「組織は完全に整備され、適材を採用すれば、業務が実行できる組織能力を備えている」といえる。そのために「組織は過去に実施して得られたナレッジが補完され、再利用できる仕組みが完備されている」と考えてよい。
米国の組織は
@ 社会が共同でつくったスタンダードを採用している
A 過去のナレッジが検索可能で蓄積されており、日々アップデートしている
B マニュアルに従って業務が遂行できる体制が整備してある
C 社会が共同で開発したスタンダードには資格試験があり、資格者が社外から供給できる仕組み(ユニオン)が整備されている。従って残業をしない体制が整備されている。

3. 企業は人なりの日本組織
@ 組織は欧米流の組織と形態は同じである
A 組織のナレッジマネジメントが整備されていないが、社員の終身雇用制で、ナレッジが社員の頭の中で補完され、聞いて歩けば人間辞書が対応してくれる
B 会社は自社がつくったスタンダードを採用しているが、数年たった社員には必要性が薄いため、アプトデート的な整備がされないという欠点がある。
C 必要な人材が社会から補完されにくい労働市場であるため、「適材・適所の人事政策」(人材をどのポストに移動させるか)となっている
D ナレッジマネジメントの基盤がないために、多くの新人(含む中途採用者)は経験学習の恩恵を得られず、過去の蓄積知識を使うことが難しく、時間の節約に利用できない(残業が多くなる)
E 変化の速い社会では、スタンダードの改定も頻繁となり、企業標準は社会の変化に追従しにくい

4. 国内のプロジェクトでは打ち合わせが多く、変更が多い。
 顧客のプロジェクトメンバーの経験度が低い、知識吸収時間と変更処理時間が多くなり、仕事量が自然に増えていく。同時に個人の趣味もプロジェクトに導入され、質の低下を逃れることが出来ない

日本から残業を減らすことは容易ではない。残念ながらプロマネは自分なりのナレッジマネジメントをつくり、自己流にプロテクトしながら仕事を進めている。これが裏技である。
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