グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第39回)
P2M 2009ヨーロッパ夏の陣 その2

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :10月号

 今回はウクライナでの本年7月のP2M Weekの続編である。
その後、ウクライナでP2Mをもう少し本格的に教える構想が浮上しており、本シリーズの年末頃のコラムで詳細をお伝えできることを期待している。
 それにしても前回、余談でエアラインのことを書いたが、日本では今、日本航空の凋落と再建が大きな問題となってきた。欧米で、古くは米国のパンアメリカンに始まり、かつてのフラッグキャリアが続々とマネジメントがしっかりした他のエアラインの軍門に下る時代が遂に日本にも来たかという感想である。
 さて、ウクライナの陣の第1弾であるチェルノビル原発公社でのP2Mマスタークラスはセルゲイ・ブシュエブ ウクライナPM協会長と公社の革新・教育本部長の周到な準備のお陰で成功裏に終了した。筆者とブシュエブ会長が講師を務めた。
 ウクライナだけではなく、CIS諸国のなかでも原子力分野のエリート言われる イゴールゴール・グラモキン総裁以下幹部20名が参加して、ロシア語版P2Mガイドブックとロシア語のスライド教材を使用しての、イノベーションを支えるプロジェクト & プログラムマネジメントがマスタークラスを開催した。休日を使っての1日のセミナーであった。ほぼ全員がエンジニアリング専攻の他にPM修士でもあり、内容は「よく理解できる」ものであり、幹部諸氏は真剣に聴講され、また、総裁を筆頭に鋭い質問が飛んできた。
 総裁の関心事は、日本のナレッジマネジメントと品質マネジメントを応用したプログラム & プロジェクトマネジメントの考え方を今後数十年続くプロジェクトに活用できないかということであった。

グラモキン総裁へのロシア語P2M贈呈 封入プロジェクト完成図
グラモキン総裁へのロシア語P2M贈呈 封入プロジェクト完成図

 次に舞台を首都キエフに移して、キエフ国立建設・建築大学で公開マスタークラスを開催した。
 本マスタークラスは、ウクライナ協会から会員への告示とブシュエブ会長から教え子への案内で参加した30名で開催した。
 このセミナーは、受講者がほとんどIPMAのPM資格のレベルBとレベルC取得者であり、また大学院でのPM専攻者であり、理解度も高く、活発な質疑応答もあり、快適に終了できた。
 受講者の質問やコメントは概略次の項目に集中した。
  • ロシア語P2Mで、他の国際PM体系で学習済みのマネジメント領域(P2M第4部)を割愛して、我々が本当に必要としているこれぞP2Mという第1部から第3部に絞ってくれたことを高く評価する。PM体系は分厚さで勝負ではない。
  • ほとんど判じものであった初版に比べて新版は格段に明快になってP2Mの良さが理解できた(田中註:これは、かなりが、初版について翻訳者が英訳したものをそのまま仮出版し、それが世界に広がるという配慮を欠いた行為の故に引き起こされた問題である)。
  • ミッション起動のプログラムマネジメント/プロジェクトマネジメントはまさに今ウクライナに必要である。ウクライナのプロジェクトはこの配慮がほとんどない。
  • プロファイリングの概念をプログラム/プロジェクトに持ち込んだところが素晴らしい。ウクライナのプロジェクトはミッションが混沌としていてその場の対応だけである。
  • 日本のエンジニアリング業界でプロジェクトの見積り精度が+/-2〜3%とは信じられない数字である。ウクライナでは建設プロジェクトでも最良で30%程度である。
  • P2Mの概念はすぐ取り入れたい。しかし、ウクライナでも機能する要素と、日本のプロジェクトの精緻さゆえに成り立つ要素とを、識別しないといけないと感じた。
  • 大型プロジェクトの統合力で日本は世界一であるとの話であったが、まさにそう思う。西ヨーロッパのPMは大雑把で、その場限りである。
  • 確かに大変有意義な講義であった。しかし、ウクライナがまず実施すべきはマネジメントそのものの基礎概念の国を挙げての徹底である。顧客を顧客と思わないサービス、国の競争力を高める製品を作るという概念の欠如があってはグローバル化の中でサバイバルできない。P2Mは日本のマネジメントの特長として「顧客満足」、「現場イノベーション(改善)」、「完全追及主義」、「チームワーク」を謳っている。まずこの辺から学ぶべきだ。(アジア出身者)
  • このP2Mはバイブルとなるが、あと実施フレームワーク例を提供してほしい。
  • 当国で着実にP2Mが根付くような体制を築いてほしい。
  • ウクライナを拠点にCIS諸国にP2Mで打って出よう。
  • P2Mでは価値を重要視しており、大変期待した。しかし価値の論じ方に若干混乱がある。各論では理解できるが、全体としての価値論の整合が今ひとつである。
  • ロシア語訳でも改善を要する箇所があると考える。他の日本のマネジメントは大体生産管理・経営管理系であるモノづくりの背景があるので訳す方も文脈を理解して補正できるが、P2Mのような戦略系プロジェクトのマネジメントでこれだけのロシア語版を作ったのは大変な尽力であることは重々理解している。
 クラス終了後、修了書の授与式を行い、地酒のチェリーのリキュールで乾杯を行い一同で大いに盛り上がった。
キエフ公開マスタークラス風景 休憩時の意見交換
キエフ公開マスタークラス風景 休憩時の意見交換
修了証授与 田中のTAイリアナ博士候補生 受講者と記念写真
修了証授与 田中のTAイリアナ博士候補生 受講者と記念写真

 また、今回ウクライナでは、パイロットプログラムで、P2Mの国際資格の認定試験を行ったが、13名が受験し、全員すばらしい成績で合格した。ほぼ自習でこの成果である。ウクライナのPMナレッジレベルの高さを改めて認識下次第である。♥♥♥

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