グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第40回)
P2M 2009ヨーロッパ夏の陣 その3

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :11月号

今回から舞台をフランスに移す。
ウクライナから帰国して4泊家で過ごしたら、次の舞台のフランスへとなった。
飛び立つ前にPMAJの大事なイベントである、中部P2Mセミナーが7月11日に開催され、大盛況であった。例年は参加者50名止まりであるが、今年は75名が集まり、メインテーマであるモノづくり産業へのP2Mの適用に対して、モノづくり王国中部から良い反応をいただいた。
 ここまではよかったのであるが、夜セミナー終了後名古屋駅から新幹線・京成スカイライナーと乗り継いで成田のホテルに辿り付くのに大変な難儀をした。昨年3月にPMAJの国際大会を開催した際に開催前2ヶ月ほど連夜のPCとの格闘(海外のスピーカーとの調整で毎日ほぼ午前2時頃までファンドのディーラーのごとくPCとにらめっこ)で大会直前に激しい腰痛に見舞われ、腰痛自体は念力で大会中は封じることができたのだが、後遺症としてそれ以後下半身の筋肉痛(毎日痛いところが異なる)がわが身に取り付いている。
 特に新幹線は鬼門で、東京―京都・大阪間であっても必ず下半身痛がでるので、関西出張のときは航空機に決めている。羽田空港―中部空港はフライトがないので、名古屋には新幹線往復で、往きは、肢が痛くなりだしたところで名古屋に着いたのでよかったが、帰りは痛みが直ぐに出て、東京駅に着く頃には座席に座っていられないくらいであった。
 ホテルの風呂で肢を温め、鎮痛のパップ剤を貼りまくって一夜を明かしたが、まだ痛みが残っていた。
 しかし、成田からパリへの12時間半のフライトではエコノミークラスの座席でも全く痛みは出なかった。協会の同僚は、それは気圧のせいだというが本当であろうか。

 さて、今回はフランスのESC Lille School of Management パリキャンパスで、毎年恒例の、3日間のP2Mクラスを教えることがフランス訪問の目的であった。
 フランスの上位ビジネススクールとして、戦略・プログラム&プロジェクトマネジメントを最大の差異化武器とするESC Lille は、PM専攻の学生が修士課程で380名、博士課程で110名もいる。同校ではPM体系としてPMI PMBOK Guide(米国)、PRINCE2(英国)、P2Mの3つのPM体系を大学院生に履修させ、各々の資格を取得させることを大きな目的とする。その中で、P2Mは仕上げとして、PMBOK Guide履修後、できればPRINCE2も履修後に講義受講が推奨されている。
 今年のP2Mクラスを受講したのは、博士課程生1名、修士課程生40名の41名で、男女比では男性23名、女性18名と例年どおりであった。学生の出身国では(いずれも最終の資格試験受験者)フランス11名(名前から判断)、中国10名、インド7名、北アフリカ・中東(イスラム系)5名、サハラ以南アフリカ3名、中南米2名、カザフスタン1名などであった。
 今年は学生を9グループに分けての、事前学習に基づくP2M各パートの要点発表と討議のサイクルを廻すことに加えて、3時間のミニワークショップを実施した。
これは、プログラムマネジメントのうち、プロファイリンからアーキテクチャ・ストラクチャリングまでの演習で、3グループ1組で3チーム編成して行った。
 開始時に阿弥陀クジで、「ESC Lilleのアジアでの更なる地盤強化策」、「P2Mのヨーロッパでの普及方策」、「(ロシア)ニズニ・ノブゴロード州の地域開発」の3つから自グループのテーマを引当て。いずれも2−3行の初期ミッションのみを与え、予備知識無しに、下記を経て、各15分の発表を行うまで議論を詰めさせた。
  • 各チームでプログラムマネジャー、プログラムコントロークマネジャー、スポークス・パーソンを決める。
  • 初期ミッションから、全体議論のうえ、@ミッションプロファイリングを行い、ミッションステートメントとプログラムの4属性の評価を行う、Aプログラムとして実現するためのシナリオ3ケースを想定し、採択案を決める、Bプログラムを構成するプロジェクト群を策定する、C採用する戦略、マネジメント手法、主要資源を特定する。
  • 発表は、上記の検討結果を、パワーポイントスライドを作成のうえ行う。
講義でのフランス人学生の発表 ワークショップの討議風景
講義でのフランス人学生の発表 ワークショップの討議風景

 ワークショップの結果はいずれも素晴らしく、日本の学生では考えられない成果が出た。ケースのうち、ロシアの地域開発は、土地感覚が出るかどうか心配したが、学生達は州政府のウェブサイトをその場できちんと調べ、臨場感のあるプログラムに仕立て上げた。

 終了時の学生向けP2M国際資格テストでは、各学生が素晴らしいスコアを獲得し(例年あるスレスレが皆無) 41名全員が合格した。ちなみに、テスト終了後、試験内容の難易度の投票を行わせたが、「大変難解」(モロッコの学生)2名、「難解」5名、「平均的」24名、「易しい」5名であった。
 今回、はっとしたニュースがあった。ESC Lilleは6月に、ニースのSERAM Business Schoolと対等統合を発表した。フランのグランゼコール同士の統合は初めてで、ほぼ同規模の大学院の統合であり、この統合で、新大学院は、学生数でクリチカルマスを達成し、リール、パリ(2つのキャンパスを統合)、ニース、モロッコ、北京の5つのキャンパスを持つことになり、ホーム国でのInternational Business Schoolではなく、世界にキャンパスを持つ真の国際校を目指す。
 現下の世界大不況で、世の中にはバブルという概念がなくなり、何事にも金のかけ方に慎重となっている。フランスでは、HEC、INSEADといった超名門ビジネススクールはともかく、二番手グループは生き残りに必至である。

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