図書紹介
先号   次号

「ルポ 貧困大国アメリカ」
(堤未果著、岩波新書、2009年2月5日発行、第22刷、207ページ、700円+税)

デニマルさん:10月号

この本は、色々と話題性の高い本である。先ず、本の題名であるが、あのアメリカが貧困大国になった現実をルポしている。サブプライムローンの焦げ付きから昨年のリーマンショック、金融・保険、それにウォール街の凋落、GMの経営破綻等々。その結果から国民の生活はどうなったのか、その真相に迫っている。国民の生活目線でアメリカの貧困の現状を書いている。この優れた内容から、この本は2008年度の日本エッセイスト・クラブ賞を受賞している。この賞は歴史があり、評論、随筆等の中から選考される権威ある文学賞である。過去の受賞作品の中に、「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」石井好子著(第11回、1963年)、「病院で死ぬということ」山崎章郎著(第39回、1991年)等がある。もう一つ、2008年度の新書大賞も受賞している。因みに、次点に「強欲資本主義、ウォール街の自爆」(神谷秀樹著)や「白川静」(松岡正剛著)等があり、堂々の受賞作品である。

貧困が肥満をまねく   ―― 低価格+高カロリー=ジャンク・フード ――
最近のアメリカ人の貧困をハリケーン・カトリーナの被害報道や、サブプライムローンで家を追われた人のテレビ放映から全土に蔓延していることを垣間見た。こうした貧困層の生活収入は少ないから、当然食生活も限られてくる。この本では、貧困家庭に肥満児童が多い原因は、安くて満腹感のある食事しか摂れない点と学校給食でも同じことが起きていると指摘し、低価格で高カロリーのジャンク・フードが肥満をまねいていると書いている。

貧困が戦争を支える  ―― ワーキングプアと戦争の民営化 ――
現在、アメリカには徴兵制がない。しかし、イラク、アフガン等に多くの軍隊を派遣し140万人強の兵隊がいる。この兵隊を徴用する方法は、貧困層の学生に学費を援助する代わりに軍隊に入ることを条件とする奨学制度と志願制度がある。その結果、最近の兵隊は貧困層で賄われる比率が高いという。この兵隊調達が民間会社に委託され、ワーキングプアが戦争を支え、その戦争が民営化されているような構図がアメリカの現状であると報告する。

貧困が弱者を蝕む  ―― 病院や保険でも助けられない貧困層 ――
アメリカの公的医療保険は、65歳以上の高齢者か生活困窮者を対象とするメディケアだけである。だから多くの国民は、民間会社の医療保険に任意に加入する仕組みである。一方、アメリカの医療費は世界一高い。例えば、入院出産費用は1万5000ドルが相場という。その関係からか保険の未加入者は、現在4700万人もいる。なので貧困層だけでなく多くの人は病気になっても病院にも行けない。病気は弱者を一層貧困化する現実があると纏めている。

ページトップに戻る