図書紹介
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「今日の風、なに色?」
(辻井いつ子著、アスコム社発行、2009年7月7日、第5刷、221ページ、1,500円+税)

デニマルさん:9月号

今年6月8日の日本のマスコミ及び世界中のクラシック音楽ファンは、辻井伸行氏の快挙に沸いた。「全盲ピアニストの辻井さん、バン・クライバーン国際で優勝」(読売新聞)とショパン国際ピアノコンクール等に並んで難関といわれるコンクールでの優勝を報道した。このコンクールでの日本人は過去に3名が入賞しただけで、優勝は初めてである。しかも辻井さんは、生まれながらの全盲である。普通の人でも難しく果たせない優勝がハンディキャップを乗り越えて優勝したので一層話題性が高まった。今回紹介の本は、その辻井さんが生まれた時から今日まで成長を見守ってきた母親によってまとめられたものである。著者は、子どもの快挙を心から喜んでいる。しかし、全盲と書かれることに抵抗があるとも書いている。今日までに至る成長の記録と母親の苦労話が凝縮されている。普通の子でも競技会やコンクールで優勝することは難しいが、その成功秘話を色々と披露されている。

生まれ持ったもの   ―― 障害と音楽の才能 ――
主人公の辻井さんは、1988年東京に生れた。しかし「小眼球」という視覚障害であった。著者は、子どもの将来の不安と目前の子育ての悩みを抱えての葛藤が始まったと日記に残している。将来子どもが他人の手を借りずに社会参加する可能性や、そのための資格取得を考えた活動であったという。著者の子育ては、障害者としてではなく「伸行らしく」を考え、ハーモニカ、琴、バイオリン、ピアノ等音との触れ合いから始まったと書いている。

才能の見分け方  ―― 子どもの才能と親の努力 ――
著者は、わが子の才能を幼い頃に見抜いている。生後6ヶ月で、ピアノ調律師のキーから、同じ音域の声を出していたという。1歳半でピアノのレッスンを開始している。その後、著者の歌っている歌に合わせて玩具のピアノを弾いたことも紹介している。しかし、視覚障害の辻井さんの場合、点字楽譜が必要である。著者の点字楽譜の勉強から親子レッスンが始った。そして子どもの才能を生かすために親のサポートは計り知れないものであった。

才能の育て方  ―― コンクールと観客の拍手 ――
辻井さんは、7歳で全日本盲学生音楽コンクールのピアノ部門で第1位、11歳でピティナ・ピアノコンペティションD級(中学2年生以下)の金賞を受賞している。この時の審査委員は「演奏が上手いだけでなく、音と心が美しい」と絶賛された。これは幼い頃から人前での演奏で多くの拍手や喝采で才能が育まれたという。才能と周りのサポートがバン・クライバーン国際コンクールでの優勝に繋がり、子どもの成長が親の力の支えになっていた。

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