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「エンタテイメント論」(18)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :9月号

エンタテイメント論

第1部 エンタテイメント論の概要

14 映画産業の実態

●筆者の映画制作
 前号で述べた通り、筆者が映画制作に@過去、関わった実例、A現在、関わっている実例をそれぞれ紹介したい。@は、日本の企業資本によるハリウッドで制作したSF映画「ソーラー・クライセス」、Aは、筆者が関係者と共に企画中の日本映画「ジャズ物語(仮称)」である。

●ソーラー・クライセス
 「太陽の危機」を意味する「ソーラー・クライセス」は、今から約20年前、NHKエンタープラズが制作の中心となり、商社、新日鉄などが参画し、ハリウッドで制作されたSF映画である。

 この映画のシナプシス(映画のコンセプト&物語の大筋。シナリオ自体ではない)は、太陽が赤色巨星化し、地球を飲み込む「地球滅亡の危機」の物語である。核兵器保有国は、一致団結し、核兵器を集め、太陽に運び、それを投下する。その核爆発によって起こる連鎖反応で太陽の膨張を阻止し、地球が救われるというものであった。

太陽  この映画で扱う赤色巨星化の危機は、遠い将来、起こり得る危機の一つである。太陽は、水素を核反応させて約100億年燃える。現在、50億年経過し、将来、約50億年燃焼する。赤色巨星化の兆候は、最後の15億年で現われ、膨張を開始し、水素燃焼からヘリウム燃焼にシフトする。この段階に赤色巨星化が本格化する。

 このSF映画は、巨星化のリアリティーを採用しているが、核兵器投下で超膨大なエネルギーの巨星化を阻止する筋書きに無理があること、しかもファンタジーが不足していたこと等から「脚本」そのものに決定的な問題があると考え、筆者はこの映画の制作や新日鉄の投資に反対した。しかし映画制作は実行され、NHKは、TV番組で本映画を大々的にPRした。チャールトン・ヘストン出演映画であったが、映画の内容はやはりお粗末で、筆者の予想通り、全くヒットしなかった。しかし新日鉄の投資分は、同映画の二次利用でかなり回収された。

 この頃、日本の映画会社だけでなく、多くの企業は、映画制作に熱心に取り組んだ。しかしどの映画もさしたる成功はせず、むしろ失敗が多かった。映画成功の秘訣(ポートフォリオ戦略)に従わず、各社がそれぞれ「独自路線」で「一本釣り」の単発映画制作に取り組んだ。成功する可能性は最初からなかったのである。

 現在、日本の映画会社、アニメ会社、一般企業などは、ハリウッドで映画の企画〜制作〜配給(全米&世界)という「本来の一貫した映画作り」を殆どしていない。しかも懲りずに、相変わらず、「独自路線」の「1本釣り」で映画を制作している。一方ハリウッド映画会社は、日本の映画、アニメ、コミックなどの優れた題材や面白い内容を積極的に導入・活用し、様々な映画を企画〜制作〜配給して儲けている。ハリウッド映画「Shall We Dance」、「Transformer」、「HACHI」などがその実例である。

 日本のハード・ウエアー・メーカーの大手企業は、中小企業も含めて海外に数多く進出し、成功を収めている。また流通業、飲食業などのサービス企業も海外進出を果たしている。しかしエンタテイメントの「雄」である日本の映画会社は、何故、海外進出を果たせないのか。筆者が会う日本の多くの映画人はいつも「川勝さん、お金が無い」と愚痴る。お金を愚痴るより、ソフト・ウエアー・メーカーである日本の映画会社の経営者に世界に勇躍する「夢」と「勇気」がないことを愚痴るべきではないか。

 最近、日本の映画会社等が日本映画を国内でヒットさせ、儲けている。大変嬉しいことである。しかし世界の映画市場で成功せねば、所詮ローカル・サクセスに過ぎない。世界同時不況を契機に、あらゆる産業は、以前に増して、「危機と激変」に曝される様になった。この危機と激変に生き抜く最善の戦略は、「変身」と、全く新しい事業を生みだす「創造」を実践することである。「現状維持」こそ、最も危険な選択である。もしハリウッド映画会社が日本に上陸し、日本映画の企画〜制作〜配給を手掛ける様になれば、日本の「映画」のエンタテイメント市場は、米国資本の「草刈り場」になる。日本の映画人は、この様な危機感を一度でも持ったことがあるか。

●ジャズ物語(仮称)
 黒澤プロダクションの某プロデ゙ューサーは、突然、筆者の事務所を訪問し、「ジャズをテーマ音楽にした映画を作りたい。是非協力して欲しい」と申し出てきた。筆者が都内のジャズ・ライブハウスでトリオを組み、女性歌手に唄わせて出演していることを知っていての申し出であった。

 「映画制作費は?」と聞いた。「いや映画制作のお金が集まらないので困っている。何とかなりませんか」と大変な申し出に変わった。ジャズの件よりも、制作費の件の方が重要課題になった。さて読者は、筆者が何故、有名な「黒澤プロダクション」の某氏から映画の相談を受けるのか不思議に思うだろう。以前も説明したが、再度説明する必要がありそうだ。

 故・黒澤 明監督は、約20年前、MCA社のユニバーサル・スタジオ・ツアー・ジャパン・プロジェクト(USJ・Project)を新日本製鉄(株)に持ち込んだ。当時の新日鉄は、鉄の大不況で経営の危機意識を持っていた。同プロジェクトは、同社が保有する30万坪から100万坪に至る幾つかの社有地を有効活用する道を拓くと考え、同社はその話に乗った。筆者は、故・齊藤 裕社長からUSJプロジェクトの責任者に任命された。そしてプロジェクト・チームを編成し、鋭意検討した。しかし諸般の事情(公表不可)から新日鉄は、本プロジェクトを中止した。この様な経緯で筆者と黒澤関係者との付き合いが始まり、今も続いている。

 その後、大阪市・佐々木 伸助役(当時)は、このプロジェクトに取り組み、幾多の難関を乗り越え、関係者と共にUSJ大阪プロジェクトを見事に立ち上げた。そして今日のUSJ大阪の成功をもたらせた。この紙面を借りて、同氏並びに関係者に改めて心からの敬意を表したい。

 さて筆者は、いろいろ考えた末、遂に「ある秘策」を思い付いた。そして制作予算獲得の目途を付けられると確信した。早速、某エージェントの某有名エグゼクティブ・プロデューサーに相談した。「川勝さん、それは良いアイデアだ。総括プロデューサーをやらせて頂きます」とその場で2つ返事した。

 筆者は、ジャズ物語の制作に取り組むにあたり、(1)筆者の役割を「顧問」に限定すること(忙し過ぎたため)、(2)ジャズ物語のテーマ音楽にジャズを使うこと(黒澤プロダクションの同氏の要請)、(3)ジャズ物語の内容に関して3つの条件を充足すること(秘策との関係)を関係者に要請した。そして受け入れられた。

 物語の内容に関する3つの条件とは、@成功物語(サクセス・ストーリー)、A幸福終結物語(ハッピー・エンディング・ストーリー)、B現代物語(カレント・ストーリー)の3つを同時に充足することである。この秘策(公表不可)を実現させるために、この3つの条件を充足させたいのである。なお最近ヒットした日本映画「シャル・ウイ・ダンス」、「ウオーター・ボーイズ」、「スイング・ガールズ」などは、いずれもこの3つの条件が充足されている。映画を観終わった後、明るい、夢を持てる気分になれる映画だ。

 この秘策で映画制作費が事前に確保できる見通しが立つ。もし映画制作方法や予算管理方法を適時、適切に行い、必要ならば米国式の方法を導入して、映画制作費を予算内に治めることが出来れば、映画館入場収入、第2次収入、そして第3次収入からの持ち分取得は、すべて利益となり、赤字の心配が無くなる。このことで映画制作への投資資金も容易に集められる。以上の戦略で検討を開始した。

何故、良いシナプシスが作れないのだろうか?  総括プロデューサーは、「資金集めのためにはジャズ物語のシナプシスが必要です。それを先ずご用意願います」と言われた。早速、筆者と関係者と共にシナプシスの候補案を集め始めた。

 3つの条件を同時に満たすシナプシスをプロの脚本家達に要請した。しかしシナプシスの意味を理解出来ず、フル・シナリオを提出してくる脚本家や脚本の一部を提出してくる脚本家が数多く、本当に驚いた。また当初、脚本でなく、シナプシスなら簡単に良いものを集められると考えた。これが大変な見込み違いであった。

 彼らから出てきたシナプシスは、条件のどれかが欠けているものが多く、概して暗い内容が多かった。3つとも充足したものは、逆に内容が陳腐か、お粗末であった。何としたことであろう。「夢」と「希望」を与える明るい行動の物語が書けないのである。

 しかも脚本家達や関係者達は、筆者に対して「映画全体のイメージ」、「俳優のイメージ」などを聞かれた。更に「期待する物語の大筋」まで聞かれ、驚くと共にあっけに取られた。筆者が彼らに「イメージ」や「あらすじ」を与えれば、それに添ったベストの脚本を書くという姿勢が身に付いていることに気付いた。これでは脚本家自身がシナリオを創造するという喜びを放棄したことになる。日本の映画界では脚本家が軽視され、欧米の様な高額な報酬を受けていない現実が見えてくる。日本映画がつまらない原因の一つに脚本のお粗末さと、お粗末な脚本でOKとする映画制作者に問題があるのではなかろうか。同じことがTV番組制作の世界にも言えるのではないか。脚本は映画の「命」である。

 さて筆者は、お願いした以上、彼らの質問に答えざるを得ず「映画のストーリーは、3つの条件を満たし、スカッとする様な明るい楽しい物語にして下さい。しかしTV番組の様な現実性(リアリティ−)がない内容は困ります。迫力のある大人向けの物語を期待します」、「俳優のイメージが必要とのことですから、敢えて申し上げます。男優は、渡辺 謙さん、女優は、杉本彩さんです」と答えた。その途端に「渡辺 謙さんは賛成ですが、杉本 彩はエロで、ダメです」と反論が起こった。更に「お二人の出演の見込みはあるのですか?」、「内々の了解を得ているのですか?」と詰め寄られた。また杉本をイメージする理由は、筆者の好みではないかと聞かれた。

 筆者は、「今は、ストーリーも、俳優も、自由に描く企画段階です。シナプシスを決め、脚本を完成させてから、映画制作のための具体的解決策を考えませんか」と答えた。また「杉本 彩さんは、美貌と抜群のスタイルをエロの売りにされています。しかし品のある顔立ちや表情、TV番組出演時、凛とした態度を維持しておられます。ダンスでは相当の腕前と聞いています。自己鍛錬無くして得られないものでしょう。彼女は恐らくガッツも、度胸もある女優ではないでしょうか。エロを前提としないキチンとした役をお願いすれば必ずや受諾して頂けるのではないでしょうか。渡辺 謙さんに圧倒されない女優は、藤原紀香さんなどが考えられます。しかし甘いイメージの女性はダメです、杉本さんの様な凄みが必要です」と答えた。筆者は、聞かれたから答えたまで。反論するならば自らも具体案を出すべきであろう。

 読者の方々がもし本件に興味があれば、是非、シナプシスを提出して欲しい。そして映画制作のビッグ・チャンスを掴んで欲しい。

つづく

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