PMプロの知恵コーナー
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プロマネの表業、裏業 (17) 「個人の自由時間をどこで生み出すか」

芝 安曇:8月号

6月号は「他人の人の時間をうまく使う裏業」、7月号は「自分の人の時間をうまく使う裏業」だった。今月号は「個人の自由時間をどこで生み出すか」という裏業をご披露する。なぜ、このようなことを考えたかというと、遠距離通勤で自由時間が取れなかったからである。自由時間が欲しかったのは、何か「生きがいのようなもの」が欲しいと感じていたからである。

1日は誰にとっても24時間である。健康を考えると睡眠は6時間、帰宅後の食事・風呂で1時間、寝るまでの2時間の睡眠準備(これは交感神経を副交感神経に切り替え、睡眠を深くするための必要時間で、プロマネという激務の中で長生きする裏業である。通常は意味のないテレビ番組を、半分居眠りをしながら見るのがストレス解消に効果的である)。通勤4時間、起床から出勤まで1時間、会社で通常勤務が8時間、残業時間2時間(プロジェクト担当者は定常時間をプロジェクト関係者の調整作業にこき使われる。残業時間はプロジェクト関係者の明日の作業のための準備作業に使う。決して昼間と同じ作業をしない)。これを合計すると23時間である。これでは自由時間は1時間しかないが、この1時間はわけのわからないことに使われて、無に等しい。

当時は休日が日曜日だけ。疲れの解消で意義のあることなどできない。幸い通勤時間が長く、長距離だったことが幸いし、1時間半近く座って本が読めた。これで意義あることの40%は解消できた。でも60%の不満がある。そこで考えた。「自由時間は勤務時間内にある」ことに気がついた。勤務時間とは拘束時間であるが、米国人のようにジョブ・ディスクリプション(作業記述書)でやることを指示されているわけではない。幸いプロジェクトは比較的自由度がある。プロジェクトを始めるときに課題を設けては、これを実行しようと決めた。これこそ「意義ある自由時間」でないかと感じた。

幸いなことに、小さな会社で、人材不足であったため、若いときからプロマネをやらされた。主に活性炭を使った溶剤回収装置のプロジェクトである。2回目からは余裕がある。この装置を日本一にすることを考えた。日本一とは何か。最初はコスト競争力だと思い、現場建設工事を半減しようと考えた。プロジェクトスタッフに相談すると、我々だって一生懸命働いています。これ以上無理ですよという言葉が返ってくる。そこで中学出の溶接工に相談した。「わかりました。配管を工場でつくっていけば工期を短縮できます」という答えが返ってきた。「でも、現場あわせが大変だろう」というと、「土建業者に、基礎を正確にやらせますから問題ありません」と、うれしい答えが返ってくる。今でいうプレファブ工法であるが、当時はどこもやっていなかった昔々の話である。
さて、これに成功すると業務内の自由時間とは仕事そのものの本質を求めることだとわかり、仕事が趣味に変わってくる。次は建設現場で時間がかかっていた鉄骨内に据え付けていた蒸留等一式を鉄骨ごと工場で組み立てて、トレーラーで運び、クレーンで一気に据え付けると1ヶ月の工期が短縮できた。今で言う「ブロック工法」の小型なものである。

人間は面白さを一度味わうと中毒になる。その後工夫して3棟あった活性炭の吸着槽を2棟にし、コストを30%減らした。その次は粒度の小さな活性炭を採用して、活性炭層を薄くし、装置のモジュール化を果した。モジュラー化のために直径1メートルの大型バルブの開発も機械エンジニアの反対があったが、アイデアを社内から公募し、それを採用して開発した。専門のバルブ会社から購入する価格の1/10のコストでバルブを開発した。やると決めたら、工夫次第では多くのものはできるものだということを実感した。

考えてみると、「自由時間を仕事の中に見出す」と決めたことが出発点であった。この発想は今も変わっていない。なぜかというと、仕事だけでなく、何か新しいことを発見すると、それをトライすることで大切な時間を楽しく使えたという充実感がある。この習慣は今も変わっていない。しかし、これができるのは、健康であること、周りの人がいろいろと仕事を持ってきてくれるからである。周囲の人にサポートされて生きてきたプロマネ人生に感謝、感謝である。
以上
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