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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜実現したい状態を思い描いてみる力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :8月号

 “If you can imagine it, you can achieve it; if you can dream it, you can become it.”
 (想像することができれば、それを実現できる。夢見ることができれば、それになれる)
アメリカの教育者でもあったWilliam Arthur Ward氏の格言だ。これを実践し、”If you can dream it, you can do it. “(夢見ることができれば、やり遂げることができる)という言葉を残したのが、Walt Disney氏(ウォルト・ディズニー)だ。
 日本でも、神田昌典氏が「全脳思考」という本の中で、実現したい状態を具体的にイメージすることで脳が実現に向けて機能すると、述べている。脳の訓練により、「ゴールを意識することなく最後まで失速せずに泳ぎきれた」ことが、北島選手の金メダルにつながったと解説したNHKのクローズアップ現代も、脳の可能性を感じさせるものだった。
 我々プロジェクトに携わる者も、脳の力をもっと活用してみたらどうだろう。貴方がプロジェクトで実現したい状態はどんなものだろうか。貴方がいる場所は日本、それとも海外だろうか。多国籍企業や国際機関で、多様なバックグラウンドを持つ人たちとプロジェクト推進に携わっているだろうか。それとも、日本の企業で、海外支社の人たちとチームを組んでいるだろうか。外国人のステークホルダーにプロジェクトの目的を英語でプレゼンテーションしている貴方の姿が思い浮かんでいるかもしれない。
 実現したい状態を思い描く際、制約条件は一旦忘れよう。制約条件を考え出すと、本当に実現したい状態は描きづらい。簡単なことではないのはわかっている。私も職場で事業計画を立てる際、できない理由をついつい探してしまい、上司からよく注意される。「人がいないからできない、というのでは駄目だ。まず、何が必要なのかを考えないと。その上でリソースを増やす交渉をすればいい。」
 嬉しいことに、多くの場合、制約条件は乗り越えられる。例えば、ダイバーシティ時代に必要な英語。TOEICの点数が低いからといって、諦めることはない。勉強の仕方を変えることにより、TOEICの点数は上げられるし、そもそも、単に勉強量が不足しているだけという説もある。少し勉強しただけで成果が出ないと言って諦めてしまう人がいるが、我慢して継続していれば、人によって時期に違いはあるが、壁を乗り越え加速的に進歩が見られるようになる。私も小学校6年生で父の転勤に伴いアメリカの学校に通い始めた際、英語がさっぱりわからず暗い毎日を過ごしていたが、ある時を境にわかるようになり、一転して楽しい日々を過ごせるようになった。全体的な進歩が見られるまでは、業務で使う表現を集中して覚え使えるようにすることで、当座の対応はできる。
 外国人と働くことを億劫だと思う人もいるだろう。しかし、日本人同士であっても、会社や部署が違えば文化が違う。最近は、世代によって考え方が違うことも指摘されている。7月上旬に開催された人材育成に関するフォーラムでも、「多様性を認め、受け容れる」ことがテーマの一つになっていた。受容するだけではなく、各人の資質を活かしてチームとしての力を向上させる。昇進の可能性や高い給与を提供することが難しくなってきている今日、モチベーションを高めるためには、プロジェクトのメンバー一人ひとりが持つ強み「好きで得意なこと」をどう見極め、活用していくか、がプロジェクトリーダーに求められている。
 例えば、ステークホルダーを説得するにあたり、ある人はデータを詳細に分析して事実に基づくプレゼンテーションをすることを好むだろうし、また、ある人は夢を語ったり自分に対する信頼を勝ち得たりする手法を好んで使うかもしれない。私も会社で部下に仕事をアサインする際、できるだけ各人の強みを考慮するようにしているし、自分自身もできるだけ得意分野に時間を割くようにしている。苦手な領域では上達が見られないため、自分がやらないといけない羽目になると、「これじゃまずいかも」と反省することもあるが、喉元過ぎれば熱さを忘れてしまうのが常だ。苦手な領域では習熟度が低い一方、得意分野では満足感や没入感を持って仕事ができるから、どうしても強い部分に流れるのだ。そういう自分を認め、自分が得意な分野を磨きそこで秀でられる道を探りたいと思っている。
 貴方の夢の実現に向けて、心の中に強く、描いてみて欲しい。将来、プロジェクトリーダーとして仕事をしている貴方の姿を。そして、やるべきことが見えてきたら、一つひとつクリアしていけばいい。くじけそうになったら、描いた姿を思い出して。
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