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地球温暖化問題とP2M

清水 直孝 [プロフィール] :7月号

 エネルギー問題を考える場合、少し前までは、エネルギーの持続的安定確保が最重要課題であった。この課題は多くの国で共通であることから、各国によるエネルギー資源の争奪戦につながり、最後には不幸な戦争に突入する場合もあった。それ故、特に資源の乏しい日本にとって、その重要性は今も昔も変わらないだろう。この問題を持続的に解決するためには、P2Mのプログラムマネジメントの発想が必要であると感じている。

 加えて、昨今では、エネルギーの安定確保のみならず、地球温暖化を引き起こさない形で、少なくとも人類の存続に影響を与えない程度に地球温暖化を抑制した形でエネルギーの安定確保をしなければならないという命題が加わった。そして、数値目標も設定されつつある。例えば、2050年に全世界で温暖化効果ガスの排出量を50%削減(先進国では80%削減)することや2020年において、我が国の約束値として同排出量を15%削減等である。現在、世界は1次エネルギーの80%以上を温暖化効果ガスであるCO2を排出する石炭、石油、天然ガス等の燃焼から得ていることを考えると、この課題の難易度が極めて高いことは誰の目にも明らかであろう。

 PM的には、地球温暖化抑止を一つのプロジェクトと考えれば、その目的の達成が、2050年温暖化効果ガス排出量50%削減をすれば本当にできるのかが最重要ポイントであるが、ここでは、それで可能であると仮定して、50%の削減をどのように各国に割り振ったら良いかを考えてみる。割り振りの論点として大きくは先進国と途上国の削減量をどのようにすべきかという点がある。先進国の言い分としては、2050年に先進国全体で排出量を0%にしても、途上国等の排出量が増大し、放置すれば結局、全世界で今よりも増えてしまうので、先進国以外も努力しなければならないというものだ。一方、途上国側は、この温暖化は産業革命以来先進国が営々とCO2を排出した結果であり、途上国にその責務を押しつけるのはおかしいというものである。であれば、一人当たりの排出量、排出権というべきであろうが、それを全世界均等に50%削減ベースで割り振ったうえで、更に、過去の排出分も考慮し、公平性を確保した形で削減量を決める必要があるということだろう。

 このように先進国と途上国の一人当たりのCO2排出量や過去の排出量に着目して公平化を図るとした場合、2050年の世界人口及び一人当たりのエネルギー使用量が今より増大することを踏まえれば、先進国は限りなく0%に近い排出量を目指したうえで、先進国以外も公平性を担保しつつ可能な限り削減を行う必要があるだろう。長々と述べてきたが、この問題は、P2Mの視点でみれば、「あるべき姿」と「ありのままの姿」に大きな乖離があるということだろう。そして更に、我が国や米国では、大幅な削減が短期的に経済的マイナス効果を伴うとして、その影響を大きく受ける業界を中心に反対や慎重意見が多い。

 議論している間にもCO2は排出し続けられており、しかも増大を続けている。本年末にはCOP15にて2020年時点の各国の削減量に対するルールを決めることになっているが、未だ妥協点を見い出せずにいる。その妥協点が地球温暖化抑止に十分でない可能性があるにもかかわらずだ。しかし、人類はこの問題を放棄することなく解決に向けて努力を続けると私は信じている。そして、その過程で多くのP2M的発想、アプローチが取られると見ている。その中で、我が国も後の世代が誇りに思えるような発想、活動を行うべきであろう。私個人としても、微力ながら貢献できればと考えている。
−了−
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