「変化するリスクマネジメント (3)」
今月は,先月号で述べたようにチェックランドのソフト・システムズ方法論(SOFT SYSTEMS METHODOLOGY IN ACTION,以下,SSM)をリスクマネジメントにどう適用するのか,その基本的な考えを述べてみたい.
SSMの基本は,以下の図で表される.関心の対象となる現実の世界(問題状況)を認識し,人的活動と関連するモデルを選択する.選択したモデルと認識した状況とを比較し,改善するための行為を行う.このことにより現実の世界(認識した世界)が変化する.これは自分の中での認識の変化も含んだ変化を指している.変化した世界をもとに,新たな問題状況を認識する.あとは,このサイクルを繰り返す.このことにより,当初の認識が,より現実を捉えたものとなる.
リスクマネジメントで扱う対象(現実の状況)が,顧客や技術を含む社会の変化に対応して変わってきていることは,この連載の最初で述べた.リスクを識別する際,従来の認識では識別できないリスクが存在する可能性がある,ということである.言い換えると,我々が無知であること,認識できない状況によるリスクが存在するといえる.そのためには,現実の世界をどのように認識するかが,ポイントとなる.ここにSSMをリスクマネジメントに適用する意味がある. SSMのこのサイクルは,問題状況を理解するための「探索システム」であるとも言える.リスクの識別に,この探索システムを有効に利用することが,これからのリスクマネジメントに必要となる.これまでの経験から得られたチェックリストを用いるだけでは,新たな状況への対応はできない.モデルと現実状況の差異により,リスク認識(もしくはリスクセンス)を向上させることが期待できる.上図に示したサイクルをリスクマネジメントに適用することで,認識できなかったリスクを認識することが可能となるのではないか,本稿の論点はそこにある.リスクマネジメントへの適用を考えた場合には,以下の図となる.
変化への対応に対するツールとして,モデルを利用した現実状況との比較は有効である.モデルを利用する手法として,HHM(HIERACHICAL HOLOGRAPHIC MODELING:階層化ホログラフィックモデリング)という手法(Yacov Y. Haimes,Risk Modeling, Assessment, and Management 3rd, WILEY, 2009)がある.HHMは大規模なシステムのリスク識別に有効であるといわれている.モデルを利用するSSMがリスクマネジメントにとって有効な手法の1つであることは,HHMの有効性からも類推可能である.
5月号でも示したが,本連載ではプロジェクトの3つの基本サイクルをDRL(Decision making, Risk management, Learning)サイクルとし,プロジェクトマネジメントを考える上での本質的な要素としている.プロジェクトにおける意思決定,組織学習,リスクマネジメントという3つの基本サイクルにSSMを加えることで,リスクマネジメントを補強することができる.
筆者は,ある研究会においてPRIME(Practical Risk Identification Methodology)というリスク識別手法を開発している.それは,3つの基本サイクルを実際のリスク識別に適用したものであり,HHMによるモデルを利用したリスク識別を行う.ワークショップを開催し,手法の有効性に関しては一定の評価を得ている.次号では,そのPRIMEにSSMを適用し,新しいリスク識別手法について述べたいと思う.
|