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「変化するリスクマネジメント (2)」

河合 一夫 [プロフィール] :6月号

 今回はシステムアプローチとリスクマネジメントについて考えたいと思う.変化するリスクマネジメントという連載を始めるに当たり,まずシステムアプローチを取り上げた理由について少し述べたい.先月も述べたが,リスクは変化から生じる,と考えている.その変化をどのような視点で捉えることが必要なのか.以下にさまざまな変化とその要因との関連の一部を示す.
変化とその要因との関連の一部
 昨今のプロジェクトは,それがどんな種類や規模であれ,ここに示した変化の影響を受ける.例えば,地球の裏側で起こったサブライムローンに端を発する金融危機は日本の経済を揺るがし,それに伴うコスト圧縮が各社で実施され,プロジェクトの計画変更,延期や中止といった影響を与えた.このような要素が複雑に絡み合った変化を捉えるには,システムアプローチを取る必要がある.システムとは,「個々の要素の集合であり,これらの要素は,この集合が1つの個別体(entity)としての特性をもつ全体を構成するように相互に結びついている」(チェックランド,ソフト・システムズ方法論,有斐閣,1994)と定義される.プロジェクトはさまざまな要素の集合であり,それらが相互に結びついて,その目標の達成に向かう.プロジェクトを変化する環境の中におけるシステムとして考えることで,プロジェクトに発生する変化を理解することができるのではないか.
 まずは,システムアプローチの一つであるチェックランドのソフト・システムズ方法論(SOFT SYSTEMS METHODOLOGY IN ACTION,以下,SSM)をとりあげ,リスクマネジメントへの応用について考えてみたい.SSMは,現実世界の問題状況をモデル化し,現実世界とモデルとの比較や考察を通じて,状況を改善する行為に辿りつく方法論である.SSMは,人間の活動が織り成す複雑なプロセスを取り扱うものである.それは,「その状況にかかわっている人々の間に,原則として終わることのない学習サイクルを活性化させる方法論」(ソフト・システムズ方法論)とも言われている.本稿では,プロジェクトマネジメントを下図に示すDRLサイクル(Decision making,Risk management,Learning)の3つのサイクルで考えている.
DRLサイクル

 この図は,プロジェクトを実行する意思決定の過程において,学習やリスクマネジメントを必要とすることを示している.これは行動による状況の変化が,リスクマネジメントや学習のサイクルと密接に関連していることも表している.このことはSSMと通じるものがある.SSMを適用して状況を改善することで,状況そのものも変化する.そして,新しい状況において再びSSMによる学習サイクルが始まる.SSMを通してリスクマネジメントを考えることで,この連載の目的である,今後のリスクマネジメントがどう変化すべきかの一端がみえるように思う.
 このDRLサイクルにSSMを重ねると以下の図となる.行動した結果を観察し,作成したモデルとの比較により,状況を改善するための行動をとる.ここでは,予測の部分に現実世界とモデルとの比較や考察を通じて,状況を改善する行為に辿りつくSSMのプロセスが関わってくる.3つのサイクルにSSMを導入することで,従来のリスクマネジメントにはなかったモデルと現実世界との比較による予測という部分が導入されることになる.
DRLサイクルにSSMを重ねる

 次回は,SSMをリスクマネジメントに具体的に活用する方法について述べたいと思う.
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