昨今のプロジェクトは,それがどんな種類や規模であれ,ここに示した変化の影響を受ける.例えば,地球の裏側で起こったサブライムローンに端を発する金融危機は日本の経済を揺るがし,それに伴うコスト圧縮が各社で実施され,プロジェクトの計画変更,延期や中止といった影響を与えた.このような要素が複雑に絡み合った変化を捉えるには,システムアプローチを取る必要がある.システムとは,「個々の要素の集合であり,これらの要素は,この集合が1つの個別体(entity)としての特性をもつ全体を構成するように相互に結びついている」(チェックランド,ソフト・システムズ方法論,有斐閣,1994)と定義される.プロジェクトはさまざまな要素の集合であり,それらが相互に結びついて,その目標の達成に向かう.プロジェクトを変化する環境の中におけるシステムとして考えることで,プロジェクトに発生する変化を理解することができるのではないか.
まずは,システムアプローチの一つであるチェックランドのソフト・システムズ方法論(SOFT SYSTEMS METHODOLOGY IN ACTION,以下,SSM)をとりあげ,リスクマネジメントへの応用について考えてみたい.SSMは,現実世界の問題状況をモデル化し,現実世界とモデルとの比較や考察を通じて,状況を改善する行為に辿りつく方法論である.SSMは,人間の活動が織り成す複雑なプロセスを取り扱うものである.それは,「その状況にかかわっている人々の間に,原則として終わることのない学習サイクルを活性化させる方法論」(ソフト・システムズ方法論)とも言われている.本稿では,プロジェクトマネジメントを下図に示すDRLサイクル(Decision making,Risk management,Learning)の3つのサイクルで考えている.