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「変化するリスクマネジメント (1)」

河合 一夫 [プロフィール] :5月号

 先月号までの数回は,不確実性を軸としてITプロジェクトの在り方を考えた.不確実性を,ITプロジェクトを実施する際の,要求獲得,見積,計画,技術,組織の各視点から考えた.また,ITプロジェクトにおける常識を疑うことの必要性も考えた.その考察の発展として,今回からは「変化するリスクマネジメント」ということで,リスクマネジメントが,市場や技術の変化の中で実施されるプロジェクトマネジメントにおいて,今後どう変化するべきかを,数回に渡って考えてみたいと思う.
 市場や技術の変化に対応して,我々が認知し対処すべきリスクも変化をしている.例えば,ビジネスや個人の情報の流出というリスクも,インターネットに代表されるネットワーク技術の発達や,派遣などの雇用形態の変化から発生したリスクといえる.一般的にリスクは,事象の発生頻度とその影響度の積として定義されている.近年の定義では,その事象が発生することで脅威にも好機にもなりうるのがリスクであるとされている.事象は,変化から生まれる.従って,社会,市場,技術,雇用形態,世界情勢などの変化により,発生するリスクも変化をする.特にインターネットの発達により情報の量と伝達速度が飛躍的に大きくなり,経済のグローバル化と呼ばれている複雑に絡み合った経済構造にある現代社会において,単に発生するリスクの種類が多くなったということではない本質的な変化があるように感じる.昨年のリーマンショックに端を発した一連の騒動は最初とは予想もつかない方向に進んだ.当初は日本の製造業には関係ないと思っていたことが,多くの製造業の業績悪化という形となってあらわれた.AIGの破綻にしても多くの人は予想していなかった.リスクの専門家がいる企業ですらリスクに対処できないことが起こった.このことは,リスクマネジメントにも,従来にはない視点や要素を取り込む必要性を示唆しているのではないか,リスクマネジメントのあり方を再考する時期にあるのではないか,本連載の動機はそこにある.
 また,筆者は,以前からDRLサイクルを提唱している.プロジェクトは意思決定の積み重ねであり,意思決定を支援するプロセスとしてリスクマネジメントがある.また,行動し,それを内省することで人や組織は学習する.学習のサイクルは,次の意思決定に生かされる.リスクマネジメントが組織の学習ツールの一つである,といったことを提唱してきた.即ち,学習するための場をリスクマネジメントが提供するという考え方である.これらの考えをもう一歩進めたい,そのことも,この連載の動機の一つとなっている.
DRLサイクル

 そこで本連載は次のように進めていこうと考えている.これは現時点の考えであり,当然先のことはわからない.リスクマネジメントと同じであり,考察が進み,状況が変わることで内容も変わってくる可能性がある.
 この先の予定であるが,以下に示すキーワードに従って話を組み立てたいと思う.頭の中が整理されていないので,読者の方には分かりづらく感じると思うが,今回はご勘弁願いたい.次回までには,整理をしたいと思う.
■ サービスを軸とした新しい潮流,サービスサイエンスの目指すところはどこか.
■ ITIL V3におけるリスクマネジメントM_o_R
■ BABOKの概要とリスクマネジメント
■ 技術開発とリスクマネジメント:近年の高度化,複雑化した技術開発におけるリスクをどうマネジメントすべきか.開発された技術が価値を獲得するために,リスクマネジメントは,その役割を果たせるのか.
■ マネジメントシステムに対するシステムアプローチとリスクマネジメント
■ 二クラス・ルーマンのリスク論や活動理論といった社会科学からプロジェクトのリスクマネジメントを考える.
■ 技術,ルール・プロセス,組織の変化からリスクマネジメントに必要となる要素には何があるのか.
上記をMindMapでまとめたものを以下に示す.

次回では,本連載を貫く考えとして,システムアプローチとリスクマネジメントについて考えたいと思う.
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