今月のひとこと
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見観マネジメント

オンライン編集長 岩下 幸功 [プロフィール] :7月号

 宮本武蔵「五輪書」に、「観見の目」という言葉がある。「目の付けようは、大きに広く付くる目也。観見二つの事、観の目つよく、見の目よわく、遠き所を近く見、近き所を遠く見る事、兵法の専也。敵の太刀をしり、聊かも敵の太刀を見ずという事、兵法の大事也。工夫有るべし。(戦いのときの目のくばり方は、大きく広くくばるのである。目には観の目と見の目とがあるが、観の目強くし、見の目は弱くする。離れたところの動きをはっきりとつかみ、また身近な動きにとらわれず、それをはなして見ることが兵法の上で最も大切である。敵の太刀の動きを知るが、少しも敵の太刀の動きにまどわされないことが兵法の大事なのである。工夫しなければならない。)訳:金田茂雄」
 「観の目」と「見の目」とはどういうことかというと、目で見るのを「見」、心で観るのは「観」ということである。われわれは普通、目で見て、耳で聞いていると考えている。しかし、われわれの目や耳というのは自分の好きなように見、好きなように聞いているだけで、それは全部エゴで見聞きしているわけである。だからわれわれは、目も耳も確実に客観をとらえていると思っているが、それは間違いである。どんなに見えても聞こえても、関心がないことは目に入らず、耳に入らない。そうなると、見るとか聞くとかいうことも、決して正しく行われているとはいえないわけである。そのように曖昧な見聞きをあてにして生死を掛けた戦いを挑んでは、勝つことは難しい。

 武道では、「観は心で聞く」という。観は相手の動作を見るのではない。相手の気の動きを見るのである。相手の動作を見るのは「見」にほかならない。目で一ヶ所を見るのではなく、観で全体をそのまま把握するのである。心で見るのが根本であり、目で見るのは心の見た後でなければならない。 さらに重要なことは、「遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事」である。遠い離れたところもはっきりと見る練習をしなければならない。近いところの敵の動きにだけ気がとらわれていると遠いところは見えなくなる。敵の動きの全体をつかむことが肝要なのである。「近きところを遠く見よ」というのは、すぐ前の動きにどうしても心がとらわれることを防ぐ意味でこのようにいう。相手の太刀が上段から下段にかわると、その変化にすべてが奪われてしまうようになる。すると心がそこに個縛されてその他の全体の動きが見えなくなる。見の目ではだめで、観の目が必要な所以となる。「敵の太刀をしり、聊かも敵の太刀を見ず」ということが兵法の大事であると武蔵はいうが、敵の太刀の動きや太刀筋を知ることは大切であるが、敵の太刀の動きに心がとらわれてはならない。太刀の動きだけを見の目で追い求めてゆくとき、全体が見えなくなる。これは何も兵法に限らない。どんなことをする場合にも、このことは重要なのである。見の目だけで見ていては目先しか見えなくなる。観の目をとぎすましてこそ、遠いところが見えてくる。全体が見えてくる。未来が見えてくる。

 自らの人生そのものをプログラムと捉え、自己革新のシナリオとしてプログラムデザインする中で、プロジェクト & プログラムの概念が「見観の想」に符合することに思い至りました。「見の想」はプロジェクト、「観の想」はプログラムに相当する概念と理解すると、プロジェクトとプログラムの関係が「見観の想」として、見事に統合した概念として腑に落ちます。「観の想」という概念に注目すると、大局観という言葉があります。全体のなりゆきについての見通しや判断のことですが、この大局観を持つか否かは人物評価においても重要な要素になります。又、着眼大局着手小局という言葉があります。戦略と戦術の複眼思考を持ってことにあたれという意味です。木を見て森を観ずという戒めの言葉もあります。ミクロに捕らわれ、マクロを見失うなということです。環境変化に適応した価値創造を行うためには、変化に適応した「正しい目標」を思考し、「正しいやり方」で実践するしかありません。しかし昨今のように混沌とした不確実な状況に追い込まれると、ついつい視野狭窄・思考狭窄に陥り、場当たり的な対応に終始しがちです。これでは本質的な問題解決になりません。これを避けるには、プロジェクトからプログラムへの概念の拡張が必要ですが、これは自己革新というパーソナルマネジメントにおいても同様です。パーソナルマネジメントにおける拡張とは、「見の想(目で見る)」から「観の想(心で観る)」へ視点の移動を意味します。自らの世界観に基づく、大局的な目標設定を行う必要があるからです。「観の想(プログラム)」を描き、その下に日々の「見の想(プロジェクト)」を配する二重構造を築き、そのバランスの下で自己マネジメントしていくことが、パーソナルマネジメントにおける「見観マネジメント」の要諦と思います。

以上
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