グローバルフォーラム
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「グローバルPMへの窓」(第36回)
プロジェクトマネジメント魂 その2

グローバルPMアナリスト  田中 弘 [プロフィール] :7月号

 先週まで店頭にあった日経ビジネス6月15日号のトップ記事は、「それでも世界で勝つ 渾身のグローバル経営8社」で、総合エンジニアリング企業の日揮株式会社と三菱重工業株式会社が最初の2社として紹介された。
 日揮は、インドネシアの西イリアン州(ニューギニア島)でプロジェクト史上屈指の難関工事と言われたタングーLNGプロジェクト(3000億円規模)を納期どおりにメジャーオイルBP社の最高の顧客満足を得て完成し、また、三菱重工業は、台湾新幹線を元請として取りまとめた実績を背景に、ドバイでの総事業費4300億円の都市交通システムをこれまた完璧な顧客満足を得て完成したことを踏まえて、両社に受け継がれるグローバルプロジェクト事業運営の高いプロジェクトマネジメント力が紹介された。同誌の記事を引用させていただくと『地道に、したたかに、世界に根を下ろす8社の渾身のグローバル経営。強いモノ作りを支えた「現場力」は、巨大プロジェクトの計画・遂行でも生きる』
 と。
 PMAJのP2Mは、世界に展開するプラント産業のプロジェクトマネジメント体系に我が国モノづくり産業の価値創造・現場イノベーションのマネジメントエッセンスを加えて創ったものであり、P2Mの源流での、この2社の巨大プロジェクトのマネジメントの成功は、P2Mの価値を一層高めることになり、大変喜ばしい。

 筆者は、このうちの日揮育ちであるが、同社は、筆者が入社した1967年頃からすでに完全なプロジェクトマネジメント事業を生業としていた。なにせ、製造部門を持たず、技術と知恵のみで最大1兆円規模までのプラントという毎回異なる複合成果物を毎回異なる国で創り出す日揮のDNAとは何かを常々考えてきた。自社内ではなかなか気がつかないが、社外での活動が長くなって冷静に見えてきて、それを描写すると、一言でいうとPM魂そのもののようだ。たとえば次のような価値認識や行動規範だ。
  • “For the Project” は最高の企業内価値
  • プロジェクトマネジャーは社内最高のキャリア(時々プロマネ以外の人から反発が起こるが)
  • プラントビジネスでは、プロジェクトそのもの(プロジェクトの価値)とプロジェクトマネジメントはコインの両面、どちらが欠けても、通用しない。
  • 収益の良いプロジェクト案件は、上流が勝負・・・護送船団方式がないプラントビジネスでは世界を相手の仕組み作りが勝負
  • 顧客のビジネス成功の良きパートナーとなろう(いまでこそ、多くの日本企業がこれを言うが)
  • 産業の種蒔き人・・・ホスト国とのパートナーシップ(日本の戦後の高度経済成長を支えた石油精製・石油化学産業のプラントの多くを建て、その後発展途上国のプラント建設を手広く担当)
  • プラントづくりは人づくりから(プラントプロジェクトは裾野が広い、プラントを建てるには人材づくりを同時にやらないとプロジェクトは機能しない)
  • グローバル競争力とは何か、と問い詰めた結果、日揮が辿り着いたお客様への企業価値は、日本企業の源流をも表す、誓 (Commitment) 、誠(Sincerity)、和 (Harmony)、徳 (Morality)、柔 (Flexibility)、進 (Innovation)、の6つのキー・クオリティーである。
 ところで、「プロジェクトマネジャーは社内最高のキャリア」を実感したのは入社式(42年前のことである)直後に私を含めて法文系新入社員が集められて総務部長(当時は人事は総務部の一部)の訓示を受けた時のことである。「君達はプロジェクトマネジャーの先輩達の良き縁の下の力持ち役を目指せ」と伝えられ、なにも入社式の日に言わなくとも、とがっくりきた。しかし、この総務部長の一言のシーンが、私が、世界が相手のエンジニアリング会社は社員ひとりひとりが価値を証明しなくてはならない、と決意した最初の一コマであった。工学部・理学部出身者以外がエンジニアリング会社で伍してやっていく競争力とは何か。格闘は続いた。
 次号では、筆者が当事者であった部門でのPM魂の話をしたい。 ♥♥♥

引用書籍: 日経ビジネス6月15日号特集記事「「それでも世界で勝つ 渾身のグローバル経営8社」

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