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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜相手の立場に立つ力@〜

井上 多恵子 [プロフィール] :6月号

 「日本人の行動には、いかなるロジックを用いても、理解できないものがある。」このアメリカ人が書いた文を読んで、皆さんはどう感じるだろうか?
 「我々日本人にだって、理解できないアメリカ人の行動はある。」と考える方もいるだろう。一方で、「どうしてアメリカ人はそういう見方をするのだろう?日本人は、他の国の人からどう見られているのだろう?」と思った方もいるだろう。
 コミュニケーションを円滑に進めるためには、「相手の立場に立つ力」が必要だ。そのためには、相手の価値観や考え方などを知ることが不可欠だ。その観点から、米国で異文化トレーニング用に使われているテキスト*1をGWに読んでみた。冒頭の一文はこのテキストに書かれていたものだ。1994年に出版された本なので、内容がやや今に合わないところもあるが、アメリカ人の見方を知るためのヒントにはなった。
 そもそもアメリカ人と日本人とでは、重視する点が違うらしい。テキストでは、アメリカ人は「客観的な現実」をより重視する一方、日本人は「人間関係でどんな感情が生じるか」をより重視しているとした上で、日本人とどう接したらいいかを示している。
  1. 日本人の行動を非論理的と見なすのではなく、「感情を重視する結果、引き起こされている行動だ」ということを理解し続ける(努力する)。
  2. マイナス感情を避けるために日本人が取っている行動―例えば、「謝る、他の人が考えていることを聞く・探る、はっきり否定しない」など―を知る。
  3. 「なぜ特定の行動を取っているのか」という理由がよくわからない場合は、何を相手が重視しているのかを考える。
  4. 特に否定的なメッセージを伝える非言語メッセージを読み取れるようにする。
 上記2に記載されている「謝る」という行為については、日本では社会的な潤滑油の役割を持っていること、そして、謝った人が必ずしも悪いということは意味しないと説明している。「他の人が考えていることを聞く・探る」という行為は、何かを決める際に見られるとしている。どこに食べにいくかをグループで決める際、和を大事にする日本人同士では、お互いの腹の探りあいがありなかなか決まらない。この状況は、皆さんも容易に想像ができるだろう。私も昼食を職場の同僚と食べに行っていた時は、毎回、「どこに行く?」「どこでもいいよ。どこに行きたい?」そんなやり取りがしばらく続くのが定番だった。自分の好みを言ったら、相手が別のところに行きたくても遠慮して言わなくなるのではと思うからだ。これがアメリカ人同士だと、他の人の感情を害することは気にせず、自分が行きたいところをそれぞれ言いあった後、各選択肢を比較して決めるのが通常だ。”Where do you want to eat? I want to eat at xxx.”といった具合である。こんなアメリカ人にとっては、「他の人が考えていることを聞く・探る」という行為は、決断力の無さを意味し、いらいらする原因となるらしい。
 「はっきり否定しない=Noを言わない」日本人と上手く接するためには、何か要望を出したり食事などに誘ったりする場合、相手がNoを言わなくてもいいように話を持っていくことを勧めている。「もしよろしければ、お願いしたいことがあるのですが、、」と切り出し、相手の反応=非言語メッセージを見て乗り気でないようなら、「忙しそうですね、、」と言うことで、相手がNoではなく、「はい」と言えるようにしてあげる、といった具合である。こうしてあげると、日本人は断るという気まずい思いをしなくてもいいと記述している。
 読んでいて、いかにも事象を分析し、理由を考え、形式知化することに長けたアメリカ人らしい、と感心してしまった。ちなみに、こういった「人間関係で生じる感情」をより重視するのは、日本人だけではないということも指摘している。ある場所への行き方を聞かれて行き方を知らない場合、知らないと正直に答えることで相手をがっかりさせるよりも、あたかも知っている振りをして答えることを選択するメキシコ人の例をあげている。私も学生時代、スペインを一人旅していた時に、とんでもない行き方を教えられて閉口したことがあったが、なぜ彼らがそうしたのか、その理由が今回わかり嬉しかった 悪気があってしていたことではなかったのだ。
 NPO法人GEWELが働く男女を対象に意識調査を行ったところ、「企業業績の向上にとって人材の多様性が重要と考える人」が52%に上ったそうだ。(2009年4月27日付け日本経済新聞)こういった人材の多様性をプラスに捉える態度があれば、多様性を活かす動きが今後、加速するだろう。その中で、皆さんが成果を上げられるよう、次回も引き続き、「相手の立場に立つ力」やその際に不可欠な「相手の価値観や考え方などを知る」ことを考えてみたい。

 *1
“Improving Intercultural Interactions Modules for Cross- Cultural Training Programs” Sage Publications 1994 Editors: Richard W. Birslin, Tomoko Yoshida
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