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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜異質なものを受け入れる力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :5月号

 私が講師をしている「PMSのコミュニケーションマネジメント」で、ダイバーシティについて説明したことがある。2008年に開催されたヒューマンキャピタルフォーラムで、日産自動車常務執行役員の川口氏が語った「モノカルチャーな時代を経て、我々は今、色々な価値観を持つ人の意見がぶつかりあうことでより大きな価値を創造することができる、カルチャーダイバーシティの時代に生きている」というメッセージを紹介したのだが、それに対して、受講生の方からこんな質問を受けた。「ダイバーシティということは、異なる相手を受け入れなければいけないということですよね。それって難しくないですか?」
 誤解を恐れずに言うと、私自身は、外国人のほうが受け入れやすい。「外国人だから、当然考え方や価値観が異なっているだろう」と思って接しているからだ。むしろ、同じ日本人だったり、相手のことを理解していると思っている、夫や職場の同僚など自分に身近な人が想定外の行動を取ったりした時に、戸惑いを覚えてしまう。冷静に考えれば、同じ環境で暮らしていようが、仕事をしていようが、100%相手のことがわかる、なんてことはありえないのに。しかし、この現象はどうやら私に限ったことではないらしい。先日も、マンションでエレベーターを待ちながら携帯電話で大声で叫んでいる、40代とおぼしき女性を見かけた。「本当に、xxちゃんったらむかつくわよね。突然あんなことを言い出すなんて! 何、考えているかわからない!!!」だから、ダイバーシティだからと言って、特に何か極端に新しいものに対応しなければいけない、ということではなく、今までの延長線上にある話だと私は思っている。
 身近な人であれ、外国人であれ、「一人一人が違った考えや価値観や意識を持っている」ということを認識することが出発点だ。2009年2月にダイヤモンド社より発行された「ダイアローグ 対話する組織」という本の中で、著者の中原淳氏と長岡健氏は次のように語っている。「他人がいなければ、そもそも我々は『自分らしさ』ということに気づくことも無い。自分の考えなり行動に対して他の人がどういった反応をするか、を見るといったプロセスを経て、我々は自分の立ち居地を確認できるようになる」。我々は、他者と接する経験を通じて自分を振り返ったり、視野を広げたりすることができるのだ。しかし、これはたやすいことではない。防衛本能が働き、自分を正と見なし、他者を批判的に見てしまいがちだからだ。
 これを乗り越えるためのキーワードの一つが、船川淳志氏が提唱している「オープンマインド」だ。氏は、2008年2月19日付けの日本経済新聞 丸の内キャリア塾で、「異文化との出会いを実り多いものとするために、オープンマインドでいること」の重要性を語っている。」オープンマインドで異なる文化を理解し、そこから学ぼうとする「受容」の態度で興味や好奇心を持って接することで、幅広く情報を収集でき、さらに学ぼうという意欲を持つ好循環に入れる。一方、異文化を理解しがたいものと感じ、コミュニケーションに消極的になる「拒絶」の態度で「違い」にフォーカスすると、限られた情報しか得られず、偏見を助長する悪循環に入ってしまう。23歳の時にパラグアイに行き、価値観がまったく異なる人々と数年間生活したザスパ草津の広山望氏は、好循環を見事に作り出した。 彼は、自分の主張を突き通すのではなく、「それもありか」とすべてを受け入れるオープンなスタンスで、「違い」に興味を持つことに楽しさを見出したのだ。その結果、「困難を前に、一瞬で前向きになれる思考回路」を身につけたという。(2009年4月14日付けの日本経済新聞より)
 建築家の隈研吾氏は、「受け入れる」ことを一歩進めて、違いを活用して成功した。2008年3月17日付け日本経済新聞は、氏が中国での設計に取り組んだ時のことを紹介している。竹の家を中国で建築するにあたり、氏が地元の職人に竹を太さ6cmにそろえて用意するよう指示したところ、指示に反して、ばらばらのサイズのものが届けられたという。彼のすごいところは、制約を逆手に発想転換をし、不ぞろいが面白いと思えるような設計に挑戦した点だ。マイナス条件を建築の個性にすることに成功した結果、中国から次々に設計の依頼がくるようになったという。
 ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメントでは、常識が通じないことが多々ある。それを「嫌なこと」として捉えるのか、面白がって、「それを活かそう」と考えるのか、我々の意識によって結果に大きな違いが出てくることは間違いない。あなたは今どちらの派ですか?そして、これからどちらの派になりますか?
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