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「ダイバーシティ時代のプロジェクトマネジメント」
〜世界から学び、そして、世界に発信する力〜

井上 多恵子 [プロフィール] :4月号

 「世界から学ぶ力」と題したオンラインジャーナル2月号で、「グローバル化の流れを活用し、世界から貪欲に学んでいくことが我々PMにとっても得策だ」と述べた。先日TOC(Theory of Constraints 制約理論)について教えるセミナーに参加して、この「世界から学ぶメリット」をさらに実感した。TOCは、エリヤフ・ゴールドラット博士が創始した理論で、この理論をわかりやすく説明するために書かれた「ザー・ゴール 企業の究極の目的とは何か」や「ザー・ゴール2 思考プロセス」や「クリティカルチェーン なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか?」や昨年末に発売された「ザ・チョイス―複雑さに惑わされるな!」といった本を読んだことがある人も多いだろう。セミナーでは、TOCの最新の知識体系についての講義が、それらについて造詣が深いイスラエル人やインド人講師によって行われた。非常に中身が濃い内容で得るところが多いセミナーだったが、参加者は、「英語を理解し、英語で自分の意見が述べられる人」に限定されていた。講義は英語で行われたし、受講生に発言や発表を求めたりする受講生参加型だったからだ。
 既に、何回かこのジャーナルで「ダイバーシティ時代における英語力の大事さ」について語ってきた。レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長兼CEO本田直之も、「サバイバル・キャリア術」という本の中で、「今やPCを使えないと仕事にならないのと同様、何年か先には、英語が使えないと仕事にならない時代になる」といったことを書いている。英語力の不足がボトルネックとなり、学ぶ機会を得られなかったり、また、望む職につけなかったりといった事態は避けたいものだ。
 自らの知識や意見を発信する力も、高めたい。第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」の監督が授賞式でコメントした内容は、果たして聴衆の心に響いただろうか?少なくとも、私には平凡に聞こえた。世界中の人に対してメッセージを発信できる最高の機会だったのに、もったいない。英語力の問題ではない。実際、英語が流暢ではないスペイン人の女優が、「映画は世界中の人々を一つにすることができる」といった発言をし、聴衆の拍手を得ていた。伝えたいことがあって、それを伝えるための努力をしているかどうかの違いだ。世界の舞台で戦うために英語を学び、英語でのインタビューのレベルアップにつなげているゴルフの石川遼の意気込みを見習いたいものだ。
 発信しないことにより、能力不足と思われてしまうこともある。2008年6月3日付けの日本経済新聞に記載された「Nippon ビジネス戦記」の中で、DHLジャパン社長のギュンター・ツオーン氏は、日本人が各国の人が集まった会議の場で積極的に発言しないことにより、他国の参加者に比べ優れていないように思われてしまうことがある、と警告している。
 相手に関心を持ってもらうためには、新しい視点を提供することも効果的だ。例えば、舞台演出家の野田秀樹は、海外の人たちとコミュニケーションする際に”From the Asian point of view”(アジアの視点から言うと)という表現が役立つとNHKの「英語でしゃべらナイト」という番組で語っていた。日本プロジェクトマネジメント協会も、「日本発のPMの体系」として、P2Mについての国際会議を東京で開いたり、フランスのリール大学院でセミナーを開催したりして、P2Mの地位の向上に努めている。
 「発信する」という行為は、「学び」の効果を高めることにもつながる。数年前から職場で研修の企画・提供の業務に携わっている関係で、「学び」について考えることが多くなった。その結果わかってきたのは、「アウトプット」を意識しないと、研修を受講してもその場限りになってしまいがちだということだ。あるツールを学んで「これはいい!」と教わった瞬間は思っても、その後一度も活用することがなかった経験を持っている人は多いのではないか。だから研修では、職場での実践を意識して、ロールプレイやワークを取り入れ、学んだことを自分の言葉で語ってみてもらう場を設定している。海外から学ぶ際も同様だ。漫然と知識やノウハウを得るのではなく、「なぜ自分はそれらを学びたいのか」明確な目的意識を持って、自分なりの理解や知見を加え、発信してみる。そうすることで、また更なる知識やノウハウを得たいという気持ちも強まる。皆さんには、どんどん学びそして、発信して欲しいと思う。ダイバーシティ時代では、世界中から学びそして世界中に発信できるという素晴らしいチャンスがあるのだから。
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