PMプロの知恵コーナー
先号   次号

「エンタテイメント論」(15)

川勝 良昭 Yoshiaki Kawakatsu [プロフィール] :6月号

エンタテイメント論

第1部 エンタテイメント論の概要

14 映画産業の実態

●米国人の映画への評価
>筆者は、前号で「破綻したテーマパークに復活はあるか?」 その前の号で「本物のテーマパーク」、更にその前の号で「テーマパークと都市開発」と3度、テーマパークについて様々な観点から論じた。
そして本物のテーマパークは、「映画」や「ゲーム」の自動再生産機能に持っていることを指摘した。その機能を持つ「映画」ついて今月号から様々な観点から論じたい。
>さて映画は、「マシン・エンタテイメント(筆者の造語)」の代表例である。そして映画は、昔も、今も、世界中の数多くの人々に愛され、楽しまれている。映画は、平時だけでなく、戦時も数多く制作された。時に為政者や独裁者は、映画を民衆マインド・コントロールの手段に利用した。
>映画とは、20世紀の人類の歴史を物語る「動画絵巻」と言って過言ではないだろう。米国では映画を総合芸術として評価している。後世の人々の評価に耐えるであろう作品をNational Treasurer(国宝)として格付けしている。例えば「風と共に去りぬ」の様な映画作品は、フイルム原版の保存だけでなく、数百年の年月にも記録画像も記録音楽が変化しない永久保存の特別処置がなされ、大事に保存されていると聞く。

●日本人の映画への評価
>それに対して日本はどうであろうか。優れた映画を「国宝」として評価する考えも、制度もない。一方毎年、多くの人が国から勲章を貰っている。人を表彰するならば、モノも表彰すべきであろう。
>映画は、20世紀が生んだ総合芸術であることに異存はないであろう。映画は、小説よりも、絵画よりも、彫刻よりも、音楽よりも、オペラよりも、ミュージカルよりも、何よりも、人々に強い衝撃、感動、感涙を与える。そして映画は、安価で、容易に、気軽に味わえる比類なきエンタテイメント源である。そのためか、日本では映画を過小評価している。
>さて日本の数百年後の未来人の鑑賞に耐える映画は何であろうか。恐らく黒沢 明監督作品ではないだろうか。国民的合意形成によって映画作品の中から国宝として評価し、保存処置をすべきであろう。でないと長い年月と共にその原版は劣化する。劣化を止めないと二度と映像も音楽も鑑賞出来なくなるからだ。米国は「黒沢作品」を大切に保存している様だ。未来の日本人が米国にお願いして、黒沢作品を見せて貰う様な「情けない事態」を避けなければならない。

Tubaki Sanjuro Hichininn no samurai
Tubaki Sanjuro Hichininn no samurai
Kage musha Yojin bo
Kage musha Yojin bo
出典:アカデミー賞作品
The masterpiece movies made by the special honorary academy winner “Akira Kurosawa”

●映画の歴史
>世界最初の映画会社「クリスティー・ネスター・スタジオ」は、ロスアンゼルのサンセット・ブルーバードで1911年(明治44年)にアル・クリスティーによって誕生した。その後、1913年にはセシル・B・デミル、1917年にはチャールス・チャップリンが、それぞれ映画会社を設立した。ハリウッド映画ビジネスは、なんと明治の時代に始まっていたのである。
>映画ビジネスは、その誕生から約100年近い歴史を経て今日に至っている。映画発展の歴史、映画技術の発明のあゆみ、映画産業の隆盛と凋落など読者の興味をひく様々な出来事を本稿で紹介したい。しかしその説明には多くの紙面を要する。またそうすると本論の目的から少し外れることになる。そのため歴史に関しては、数多くの専門書に譲り、ここでは割愛した。
クリスティー・ネスター・スタジオ(1911年)
クリスティー・ネスター・スタジオ(1911年)

●ハリウッド映画産業の繁栄の原因
>映画産業が最も発達し、今も発展している国と場所は、米国ロスアンゼルスのハリウッドである。
>「ハリウッド」と聞いただけで、世界中の多くの人々は、「楽しい、明るい、美しいイメージ」を描く。
>ハリウッドを舞台にした1990年のアメリカ映画「プリティ・ウーマン(Pretty Woman)」は、リチャード・ギアとジュリア・ロバーツが主演したロマンティック・コメディ。ゲイリー・マーシャル監督は、この映画を世界的にヒットさせ、ロイ・オービソンの「オー・プリティ・ウーマン」の歌を同映画主題歌に起用し、リバイバル・ヒットさせた。これは、「マイ・フェア・レディ」を下敷きにした「現代版シンデレラ・ストーリー」である。1990年度全米興行収入第1位。
>ジュリア・ロバーツは、この作品で「ゴールデングローブ賞」と「主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)」を受賞した。彼女こそシンデレラとなった人物だ。世界中の人々は、この映画で「ハリウッド」に憧れ、「未来への夢」を託した。
プリティ・ウーマン(Pretty Woman)
出典:Amazon.com: Pretty Woman (1990 Film): Various Artists: Music

>米国は、今回の世界金融危機と世界同時不況を引き起こし、国家イメージを大きく傷つけた。しかしハリウッドのイメージは、いささかも傷ついてはいない。ハリウッドは、イメージだけでなく、シリコン・バレーと結合し、全く新しい映像産業を創り出した。またハリウッドは、メディアと結合し、全く新しいメディア産業も創り出した。そして米国の産業を支える存在にまで大発展した。
>ハリウッド映画産業の繁栄の秘密を一語で言えば、「映画をビジネスとして適時、適切に構築した」ことにある。これについて詳しい説明を後でする。

●日本の映画産業の凋落の原因
>日本は、過去に映画を事業として構築し、膨大な収益を獲得する映画産業にまで発展させた。しかし「一世を風靡した日本の映画産業は、その後のテレビの登場と発展によって凋落した」と言われている。そして凋落原因は、「テレビ」であるという通説が定着した。
>筆者は、その通説は全くのウソと考えている。その証拠に米国、インド、中国、韓国などの映画産業は、TV産業が登場し、発展しても凋落しなかった。それどころかそれらの国の映画産業は、TV産業、メディア産業などと事業結合して更なる発展を遂げている。
>日本の映画産業の凋落の根本原因は、映画産業を支える映画会社、配給会社、上映会社(映画館)などの経営者に在る。彼らは、TV産業の誕生と発展に対して、「現状維持」を決め込み、真の映画ビジネスの創造に、夢を託し、リスクを賭けて挑戦しなかったこと、そして日本のメーカーの様に世界を相手に競争してこなかったことに尽きる。
>世界の映画ビジネスに於ける国際競争の先頭を走っていた黒沢 明監督を、日本の映画会社のトップ、映画関係者、映画支援企業人は、本気と本音で支援したか。また日本映画ビジネスを国際ビジネスに育て上げ、自らも海外進出を果たしたか。一方中国の映画会社、中国映画人は、日本よりも遥か先を歩み、世界の映画界に進出している。
>日本の負け犬の「映画人」が言い訳に使い、勝ち犬?の「テレビ人」が自慢の種に使っているのがこの通説である。テーマパークの通説のウソが悲劇を招いた様に、映画の通説のウソが日本の映画産業に悲劇を招いたと思う。
>優れた映画作品、楽しい映画作品、人々が求める映画作品、そして世界に誇る映画作品を作るためには、才能のある人材を発掘し、育成することが重要と叫ばれている。勿論、その通りである。しかしそれ以上にもっと重要なことは、日本に於いて映画の企画〜建設〜運営のすべての事業が無理なく事業として成り立つ基盤を作り上げることである。簡単に言えば、映画が儲かることである。出なければ映画人の発掘・育成は不可能である。しかしその基盤形成を日本の映画会社に期待できるだろうか。
>確実に儲かる映画、リスクが無い映画、ヒットあやかりのB級映画などしか制作されない現状を誰が生みだしたのか。日本の映画会社は、その関係者に酷な言い方かもしれないが、もはや本物の映画会社ではなくなったということである。筆者のこの意見に某大手映画会社の元キーパーソンは、「川勝さん、仰る通りですよ」と本気と本音で寂しそうに同意した。日本の映画産業は、今のままでは、凋落どころか、崩壊する危機に直面するかもしれない。ではどうすれば良いのだろうか。
つづく

ページトップに戻る